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ボクシング井上尚弥が目指す「4団体統一王者」はなぜ難しいのか?

井上尚弥Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

過去7人しか達成していない偉業

日本ボクシング界の至宝・井上尚弥の周辺が騒がしくなってきた。2020年10月31日(日本時間11月1日)に米ラスベガスでジェイソン・モロニー(オーストラリア)に7回KO勝ちし、2021年6月19日(同20日)にはマイケル・ダスマリナス(フィリピン)に3回TKO勝利を収めてWBAバンタム級スーパー王座とIBFバンタム級王座を防衛。ボクシングの本場で完璧なノックアウトを見せたことで、今後について様々な情報が飛び交っている。

井上のファイトマネーは軽量級では破格の100万ドル(約1億300万円)。契約するトップランク社の敏腕プロモーター、ボブ・アラム氏は「金のなる木」となりつつあるアジアのスター候補を、今後どんどんビッグファイトのリングに上げるだろう。

井上は4団体統一を目指す意向を表明している。世界の主要4団体のベルトを統一したボクサーは過去7人しかいない偉業。ただ、強いだけで実現できるものではなく、統括団体の規定や周辺関係者の思惑もからむため、簡単にはいかないのが実情だ。

現在、世界のボクシング界を統括しているのはWBA(世界ボクシング協会)、WBC(世界ボクシング評議会)、IBF(国際ボクシング連盟)、WBO(世界ボクシング機構)の主要4団体。元々は各階級にチャンピオンは一人だったが、分裂や枝分かれして現在の形に落ち着いている。

各団体がチャンピオンを認定するため、同じ階級にチャンピオンが4人。さらにスーパー王者や暫定王者などベルトが乱造されているため、一体誰が一番強いのかさっぱり分からない状況になっている。WBAとIBFのベルトを持つ井上は、WBCとWBOの王座も獲って「バンタム級最強」を証明したいのが本音だろう。

IBFから指名試合指令

しかし、ここで問題になるのが各団体が定める指名期限。チャンピオンは9カ月、あるいは1年など一定の期間内にランキング1位の挑戦者と防衛戦を行わないといけないと規定されているのだ。統括団体が少ない時代に、チャンピオンが最強挑戦者から逃げることを防ぐために設けられた規定が、王座統一に関しては足かせになることがある。

井上が対戦したダスマリナスは当時IBF世界バンタム級1位で、IBFから対戦を指示された指名試合だった。ボブ・アラム氏にすれば、実力で見劣るダスマリナス戦より統一戦を優先した方が収益になるのは間違いない。ドネアとの再戦なら盛り上がるだろうし、井上への挑発を繰り返すカシメロとの対戦なら話題性にも事欠かないからだ。

井上にとっても、本音はベルトの増えない指名試合より最短距離で統一に向かう方がいいだろう。年に数試合しかできないボクサーにとって、時間の限られた現役生活で「回り道」は避けたいはずだ。ファイトマネーも統一戦の方が高く見込めるという魅力もある。

王座統一よりビッグファイト優先?

しかし、もしIBFの指令を無視して指名試合を行わずに統一戦のリングに上がると、せっかく獲ったIBFのベルトを剥奪される可能性がある。IBFは特にルールに厳格で「興行優先」を許さない姿勢を貫いている団体だ。

かつて日本の世界王者もベルトを剥奪された例がある。1984年、WBAスーパーフライ級王者だった渡辺二郎は、WBC同級王者パヤオ・プーンタラットと対戦し、見事に判定勝ちした。しかし、当時はWBAが15回戦制、WBCが12回戦制。渡辺対パヤオは12回戦で行われたため、WBAは渡辺のベルトを剥奪し、王座統一は幻となった。

団体ごとに独自の規定があるため、統一戦をするには相容れない場合があり、海外のリングでも同様の事例は少なくない。従って、王座統一にこだわらず、よりビッグマネーを稼げる試合を選ぶボクサーも多く、世界的に名の通ったボクサー同士がノンタイトルで試合を行うこともある。それでも「強い者同士の試合が観たい」というファンのニーズがあり、興行としては十分に成立するのだ。

裏を返せば、それだけ4団体統一には価値があるとも言える。これまで同時に4本のベルトを巻いたのは、ミドル級のバーナード・ホプキンス(アメリカ)、ホプキンスを破ったジャーメイン・テイラー(アメリカ)、スーパーライト級のテレンス・クロフォード(アメリカ)、クルーザー級のオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)、ライト級のテオフィモ・ロペス(アメリカ)、スーパーライト級のジョシュ・テイラー(アメリカ)、スーパーミドル級のサウル・アルバレス(メキシコ)の7人のみ。

井上はあらゆる困難を乗り越えて史上8人目の偉業を成し遂げるのか。日本の誇るスーパースターの「第2章」はまだ始まったばかりだ。

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