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井上尚弥の4団体統一が過去8人より難易度が高い理由、KO奪取なら史上初

2022 11/24 06:00SPAIA編集部
井上尚弥,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

12月13日に世界バンタム級4団体統一戦

プロボクシングのWBA・WBC・IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(29=大橋)がWBO王者ポール・バトラー(34=イギリス)と戦う4団体統一戦が12月13日に東京・有明アリーナで行われる。

世界のボクシングを統括するのはWBA(世界ボクシング協会)、WBC(世界ボクシング評議会)、IBF(国際ボクシング連盟)、WBO(世界ボクシング機構)の主要4団体。それぞれが独自にタイトルマッチを行い、王者を認定しているため、同じ階級でも王者が4人存在する。誰が最強なのか分からないため、他団体の王者同士が戦うのが統一戦だ。井上が4本のベルトをまとめることで正真正銘の「バンタム級最強王者」となる。

井上の4団体統一ロードが過去8人に比べて難易度が高いのは、1王座ずつ獲得しているからだ。例えば、4団体統一王者が防衛戦で挑戦者に敗れた場合、勝者はたった1試合で一気に4本のベルトを獲得できる。

実際、史上2人目の4団体統一を果たしたジャーメイン・テイラーはこのパターンだった。史上初の4団体統一ミドル級王者バーナード・ホプキンスに2005年7月に判定勝ちして歴史に名を刻んだ。

1王座ずつ、全て王者から、全てKOで奪取

井上は2018年5月にジェイミー・マクドネルに1回TKO勝ちしてWBAバンタム級王座を奪取。同王座の初防衛戦からワールドボクシングスーパーシリーズ(WBSS)に突入し、2019年5月のWBSS準決勝でIBF王者エマヌエル・ロドリゲスに2回TKO勝ちして2団体統一した。

その後、2王座の防衛を重ね、2022年6月にWBSS決勝で死闘を演じたWBC王者ノニト・ドネアと再戦。今度はわずか2回でTKO勝ちし、3団体を統一した。

3本のベルトは全て王者から、全てKOで奪っており、次戦でバトラーにKO勝ちして4団体統一すれば史上初の快挙となるのだ。

「死刑執行人」と呼ばれた元ミドル級4団体統一王者バーナード・ホプキンスも1王座ずつ奪ったが、ランカー同士の王座決定戦と判定勝ちが含まれている。日本で村田諒太と激闘を演じたゲンナジー・ゴロフキンと3度戦って2勝1分けのサウル・アルバレスもスーパーミドル級のベルトを1本ずつ集めたが、判定勝ちが含まれていた。

そのほか、スーパーライト級のテレンス・クロフォード、クルーザー級のオレクサンドル・ウシク、ライト級のテオフィモ・ロペス、スーパーライト級のジョシュ・テイラー、ライト級のデビン・ヘイニーと先述したジャーメイン・テイラーの6人は同時に2王座以上を奪っている。

ベルトの価値を下げたタイトル乱造

ここまで紹介しただけでも、各王者とも奪ったタイトル数が多すぎて少々頭が混乱するが、それこそがボクシング界の問題でもある。各統括団体はタイトルマッチをするたびに承認料を徴収するため、試合数が多いほど潤う。そこで暫定王座やスーパー王座などタイトルを乱造することで利益を増やしてきたのだ。

ファンを置き去りにした利益至上主義は、王者の価値を相対的に下げた。誰が一番強いのか分からず、世界王者になっただけでは人気も知名度も上がらない。

村田諒太がアッサン・エンダムに勝ってWBA世界ミドル級王者となった時、リング上のインタビューで「僕よりも強いチャンピオンがいますので、そこを目指していきたい」と話した。後に戦うことになるゲンナジー・ゴロフキンの存在がそう言わせたのだ。

チャンピオンより強いチャンピオン―。不可解極まりないフレーズだが、それがボクシング界の現状だ。井上尚弥はそんな分かりにくさを一掃しようとしている。ドネアを倒した時点で「バンタム級最強」を証明したに等しいが、実力的に格下のバトラーと敢えて戦う道を選択したのは、そういった背景がある。

dTVおよび、ひかりTVで独占配信される12月13日の世界バンタム級4団体統一戦。日本の誇るスーパースターが、各団体の王者からベルトを1本ずつ、全てKOで奪うという史上初の大偉業を生で観られるのは最高の喜びだ。

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