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井上尚弥4団体統一へ「最後の標的」WBO王者ポール・バトラーの実力

WBOバンタム級王者ポール・バトラー,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ドネアに2回TKO勝ちで3団体統一

ドラマの幕切れは唐突に訪れた。プロボクシングのWBAスーパー&IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(29=大橋)とWBC同級王者ノニト・ドネア(39=フィリピン)の3団体王座統一戦が7日、さいたまスーパーアリーナで行われ、井上が2回TKO勝ちで日本人初の3団体統一に成功した。

オープニングヒットはドネアの左フックだった。井上が「開始早々もらって緊張感が出た」と振り返るパンチ。5階級制覇したWBC王者の挨拶代わりの一発にリング上の空気が張り詰めた。

それでも井上は冷静さを失わない。1ラウンド終了間際、前に出たドネアのこめかみに右のショートカウンターを合わせてダウンを奪うと、会場は驚きにも近い大歓声に包まれた。

2ラウンドも井上は冷静にドネアを追い詰める。中盤、井上のパンチを浴びたドネアがぐらつくと、モンスターはギアチェンジ。歴戦の雄をコーナーに追い詰め、最後はワンツーから返しの左フックで2度目のダウン。背中から崩れ落ちたドネアを見て、レフェリーが試合を止めた。

KOタイムは2回1分24秒。前回はフルラウンドの激闘を演じた軽量級のレジェンドを、わずか264秒で仕留めた。「今回はドラマにするつもりはない」と宣言していた通り、有言実行の圧倒的勝利だった。

足と手数でWBO王座奪取したバトラー

試合後のインタビューで井上が「年内に実現すれば」という条件付きで4団体統一を目指す意向を示した。

最後の標的となるWBO王者はポール・バトラー(33=イギリス)。4月にWBO王者ジョンリル・カシメロに挑戦するはずだったが、カシメロが減量のためにイギリスでは禁止されているサウナを使用して王座剥奪され、急遽設定された暫定王座決定戦で同級4位ジョナス・スルタン(31=フィリピン)に判定勝ち。試合後、正規王者に昇格した右ボクサーだ。

スルタン戦では足を使って距離を取りながら、時折細かいパンチをまとめてポイントを奪取。フットワークと手数で終始優勢に運ぶ危なげない戦いぶりで3-0の判定をものにした。34勝(15KO)2敗の戦績が示す通り、一打必倒のパワーはないが、キャリアに裏付けられた「勝ち方」を知るボクサーと言えるだろう。

2010年にプロデビューし、2014年6月にはIBF世界バンタム級王者スチュアート・ホールに判定勝ちして初の世界王座奪取。その後、バンタム級のベルトを返上して1階級下のスーパーフライ級に落とし、2階級制覇を狙ってIBF世界スーパーフライ級王者ゾラニ・テテに挑戦したが、8回に左アッパーを顎に浴びて痛烈なKO負け。再びバンタム級に戻した。

しかし、2018年には、後に井上が2回で倒すことになるエマヌエル・ロドリゲスとのIBF世界バンタム級王座決定戦で12回判定負けしている。

井上の中盤までのノックアウト濃厚

ドネアに完勝した井上にとって、バトラーは難しい相手ではない。スピード、パワー、テクニック、どれを取っても井上が上だ。怖いのは油断だけだろう。

仮に4団体統一戦が実現すれば、おそらくバトラーはスルタン戦と同様に足を使って打ち合いを避けるはずだ。しかし、ボディーブローの少なかったスルタンと違い、井上にはドネアを悶絶させた必殺の左ボディーがある。

バンタム級では破格のパワーを秘めるボディーブローを受ければスタミナを削がれ、次第に足は止まる。打ち合いになれば井上が圧倒するはずで、中盤までのノックアウトが濃厚だ。井上のパワーや、テテにワンパンチで倒されたバトラーの顎のもろさを考えると、前半で終わる可能性も十分にある。

本来なら4団体の王者がトーナメントで戦うWBSS(ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ)で井上が優勝した時点で4本のベルトを巻くはずだったが、当時WBO王者だったテテがケガで欠場し、その後のコロナ禍もあって予定より大幅に時間がかかった。しかし、ようやく悲願のゴールテープが見えてきた。

あとは無事にマッチメークが完了することを願うだけ。幸いにもドネアと契約するプロモーター、リチャード・シェーファー氏がバトラーとも契約しており、4団体統一戦実現へのハードルは低い。

井上も29歳になり、ボクサーとしては決して若くない。年内に4団体統一戦が実現しなければ、スーパーバンタム級に上げて4階級制覇を狙う意向も示している。ドネアに完勝したことでバンタム級最強を証明したに等しいが、名実ともに世界で唯一のバンタム級王者となれるか。井上の今後に世界が注目している。

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