11月1日にWBA・WBC世界ライトフライ級統一戦
4年前から待望論があった日本人世界王者同士のカードが、ついに実現する。
WBAライトフライ級スーパー王者の京口紘人(28)=ワタナベ=と、WBC同級王者の寺地拳四朗(30)=BMB=が、11月1日にさいたまスーパーアリーナで対戦することが発表された。両王座をかけた統一戦になる。
この一戦を展望するには、元日本同級王者・久田哲也さん(37)の声を聞かなければならない。プロのリングで両者と拳を交えたのは久田さんしかいないからだ。
「勝敗の予想はしにくいですが」と前置きした上で、久田さんは言った。「接戦になると思っています。相手の対策から試合前の準備など、両陣営のチーム力が問われるのでは」
久田さんは、2人との世界戦で得た体感から、試合後に両者と交流を深める中で気づいた「共通点」までを明かしてくれた。
2人に敗れた元日本王者・久田哲也さん
2019年10月。久田さんは34歳、プロ46戦目でついに世界初挑戦にたどり着いた。挑んだのがWBAスーパー王者の京口だった。
筆者提供
試合は2回、久田さんが相手を研究した上で放った右クロスカウンターが決まり、さらに右を当て、京口をぐらつかせた。しかし、中盤以降は京口が接近戦での圧力、スタミナで上回り、9回には久田さんが右のショートを浴び、ダウンを奪われた。
白熱した打ち合いで、京口も左まぶたを腫らすほどのダメージを負った。ジャッジ3者は3、5、7ポイント差で京口を支持した。
久田さんは迷った末に現役を続行すると、36歳で2度目のチャンスをつかんだ。21年4月、WBC王者の寺地への挑戦だった。
試合は久田さんが追い、寺地が足を使ってさばく展開だった。2回、寺地の右で久田さんがダウン。しかし、久田さんも距離を詰めての左右のフックで応戦した。WBCルールで4回終了後に発表された採点では、ジャッジ3人のうち2人が1ポイント差の接戦だった。
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5回以降は寺地が距離をキープしつつ、機を見て強打を打ち込む展開になり、ポイント差が開いた。最終的にジャッジ3者が9、9、11点差という大差がついた。久田さんはこの試合を最後に現役生活に幕を下ろした。
カギは寺地がインファイトを挑むか、アウトボクシングするか
一般的には「パワーの京口」「距離感の寺地」というイメージがある。しかし、久田さんは「(寺地)拳四朗君のほうがパワーがあると思う」と言い切った。
久田さんは引退後、共通の知人の仲介で、寺地と食事をする仲になった。「しゃべってみたら陽気ですし、人懐こいところもある」。東京に拠点を置く寺地が、大阪の久田さんの自宅まで来たこともあるという。
あるとき、2人で肩を組んだ。「肩甲骨周りがゴツくて驚いた。これがハードパンチを生んでいるんやな、と」。妙に納得したという。
寺地はぴょんぴょんとステップを踏み、距離をキープしながら左ジャブを突いてくる。ときおり肩を入れて打ち込んでくるパンチが重く、強いため、相手は近い距離に入りたくても入れない。「一発のパンチ力、左の使い方、間合いは拳四朗君が上だと思う」と久田さん。
一方の京口の強みは「どちらかというとコンビネーションで、パンチのつなぎがうまく、回転力がある」。ガードを顔の前で固め、頭を振りながら前進し、単発で終わらずにあらゆる角度から連打してくる。踏み込みも鋭い。
パンチの質の違いを聞くと、寺地は「カーンと鋭く、貫通力があるイメージ」。京口については「下半身のバネを生かした、ガードごと飛ばされそうなドーンという重いパンチ」と表現した。
寺地は今年3月の前戦(矢吹正道戦)で、いつものアウトボクシングを捨て、相手の予想を裏切るインファイトで王座を奪回した。久田さんにも「僕は(インでもアウトでも)どちらでも勝てる」と、自信たっぷりに語ったという。
寺地が本来の遠い距離で京口をさばこうとするのか、あるいは近い距離で真っ向勝負するのか。寺地の出方が、この試合の最大の注目点といえるだろう。
久田さんは、寺地が距離をキープし続けようとしても「京口君の踏み込みのスピード、突破力を考えると、最後までさばききることは考えにくい。どこかで打ち合いになる」とみている。寺地がインファイトにも自信を深めているため、「下手したら早い段階で打ち合いになるかもしれない。4~5ラウンドですかね」。
メンタルも一流の2人に「万全の状態でやってほしい」
久田さんは今年8月、大阪市都島区に「H3O(エイチスリーオー)ボクシングサロン」を開き、会長として後進の育成に乗り出した。プロ加盟はしていないが、大学生のアマチュア選手から一般会員まで、幅広い対象にボクシングの技術や楽しさを伝えている。
現役時代にメンタルトレーニングに取り組み、指導者としてもメンタル面のアドバイスに積極的だが、京口と寺地、2人から学んだこともあるという。
京口との世界戦の直前、両陣営は同時期にフィリピン合宿を行ったことがあった。久田さんは「会いたくないな」と思っていたが、たまたまホテルも同じで、ばったり出くわしてしまった。すると京口は「あっ、久田さーん!」と、明るく声をかけてきたという。
「次の試合の対戦相手を目の前にして、すごいなと思った。オンとオフがはっきりしていているんだなと」
その後、寺地とはプライベートで親交を深めるうちに、2人の共通点が浮かんだ。
「まず、自分に絶対的な自信がある。陽気で、しんどいことでも楽しんで乗り越えてしまう。そういうところが、世界チャンピオンになるためには必要なんだなと」
2人の世界王者に挑んだ唯一の存在として、どんな思いで統一戦を見つめるのか。
「いろいろな感情はありますけど、これだけ注目される試合ですからね。万全の状態でやってほしい。もう、それだけですね」と締めくくった。
筆者提供
《ライタープロフィール》
伊藤雅哉(いとう・まさや)1977年9月4日、三重県桑名市生まれ。朝日新聞スポーツ部デスク。学生時代にアマチュアボクシングで1戦1勝、30歳を過ぎてプロテスト2回不合格。2018年から関西でボクシング取材を始め、Twitterでも選手情報を発信中。これまでに所属したプロ加盟ジムはWOZ、E&Jカシアス、黒潮、グワップ協栄、尼崎。
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