「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

パウンド・フォー・パウンドとは?井上尚弥が1位に選ばれた本当の価値

井上尚弥,Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

全階級を同一体重と仮定したランキング

プロボクシングの3団体統一世界バンタム級王者・井上尚弥(29=大橋)が、日本人ボクサーで初めてパウンド・フォー・パウンド1位になったニュースが世界を駆け巡った。ボクシングは階級制のスポーツのため軽量級の選手が重量級の選手と戦うことはないが、仮に全階級を同一体重と仮定した場合、井上が「世界最強」に認められたということだ。

それにしても、3団体統一以上に騒がれているようにも見える「パウンド・フォー・パウンド」には一体どれほどの価値があるのか。もう少し掘り下げてみよう。

かつてシュガー・レイ・ロビンソンという名王者がいた。1946年に初めての世界タイトルとなるウェルター級王座を奪取し、1950年にはミドル級王座も奪って2階級制覇。日本で初めて白井義男が世界フライ級王者となったのが1952年だから、それより前の話だ。

ロビンソンはその後も華麗なテクニックとスピード、フットワークを駆使したスタイリッシュなボクシングでファンを魅了し続けながら、5度も世界ミドル級王座を獲得。晩年は衰えを露呈しながらも44歳まで現役を続け、201戦174勝(109KO)19敗6分けの戦績を残した。そんなロビンソンに敬意を表して、人は「パウンド・フォー・パウンド」と称えた。

1950年代はロッキー・マルシアノ、フロイド・パターソンらヘビー級のスターが活躍したが、それでもミドル級のロビンソンの人気は絶大で、今でも歴代のパウンド・フォー・パウンド最強に推す声もあるほどだ。

タイソン、メイウェザー、パッキャオらそうそうたる面々

そのパウンド・フォー・パウンドのランキングを独自に作成しているのが、1922年にに創刊され、世界で最も権威があるとされるアメリカのボクシング専門誌「ザ・リング」。独自に認定した王者にチャンピオンベルトを贈呈するなど、他媒体とは一線を画した老舗専門誌だ。

今では他にもパウンド・フォー・パウンドのランキングを作成するメディアは多数あり、各媒体のいち企画に過ぎないのだが、世界のボクシングに精通した識者が選考し、1位から10位まで毎月発表する「ザ・リング」のランキングだけは一目置かれている。

これまで日本人でランク入りした選手は、世界バンタム級王座を12度防衛した山中慎介、世界スーパーフェザー級王座を11度防衛した内山高志、日本人で唯一4階級制覇した井岡一翔と井上の4人しかいない。カリスマ的人気を誇った辰吉丈一郎も、3階級制覇した長谷川穂積も、先日ゲンナジー・ゴロフキンと激闘を繰り広げた村田諒太も入ったことはない。

ランキング入りするだけでも特筆すべきことにもかかわらず、そこで1位に認定されたことは世界から「最強」の称号を与えられたに等しい。過去のパウンド・フォー・パウンド1位には「鉄人」マイク・タイソン、ミドル級からヘビー級まで制したロイ・ジョーンズ・ジュニア、50戦無敗で引退したフロイド・メイウェザー、フィリピンの英雄マニー・パッキャオらそうそうたる名前が並ぶ。

その輝かしい系譜に、本場ラスベガスのリングに上がった回数も少なく、アメリカから遠く離れた日本の軽量級選手が名を連ねることは、歴史に残る「大偉業」と言っても過言ではないのだ。

世界に誇る日本の「モンスター」

プロボクシングはミニマム級からヘビー級まで17階級あり、WBA(世界ボクシング協会)、WBC(世界ボクシング評議会)、IBF(国際ボクシング連盟)、WBO(世界ボクシング機構)の4団体がそれぞれ王者を認定している。さらにタイトルマッチ承認料を徴収する各団体はスーパー王者や暫定王者など王座を乱造することで潤ってきた歴史があり、同時に批判の的でもあった。

井上が4団体統一にこだわるのもそういった背景がある。ベルトを獲っても世界で一番強いと認められるにはまだ足りず、「最強」を証明するには統一王者になることが最も説得力を持つのだ。

しかし、バンタム級で4団体を統一する前に、全階級を通じて「最強」と認定された井上。日本が誇る「モンスター」はこれからどんな景色を見せてくれるのか、楽しみは尽きない。

【関連記事】
井上尚弥4団体統一へ「最後の標的」WBO王者ポール・バトラーの実力
井上尚弥を待ち受けるスーパーバンタム級王者たち、4階級制覇に立ちはだかる壁
パウンド・フォー・パウンド平成最強ボクサーは誰か