1年以上試合をせず突然スーパー王者に昇格
プロボクシングのWBA世界ミドル級王者・村田諒太がスーパー王者に格上げされた。
スーパー王者とは他団体の王座も獲得して統一王者となった場合や、長期防衛を果たした場合にWBAが認定して昇格するが、村田は統一王者でもなければ、防衛回数は1回だけで、そもそも1年以上試合をしていない。
しかし、それまでのミドル級スーパー王者で、パウンド・フォー・パウンド最強と言われるサウル・アルバレス(メキシコ)がベルトを返上したため、正規王者の村田がその後釜に収まる格好となった。
なぜこんなことが起こるかと言うと、WBA(世界ボクシング協会)などの統括団体は世界タイトルマッチをするたびに承認料を徴収しており、試合数が多いほど収入が増える。従ってアルバレスが返上したからといって空位にしておくより、村田をスーパー王者に格上げして正規王座を別の選手で争った方が潤うのだ。
今秋にゴロフキンとの統一戦目指す
これには、かねてからボクシング関係者の批判の声が多く、統括団体の利益至上主義によって世界チャンピオンの価値が下がっていると言わざるを得ない。自分の力で勝ち取ったスーパー王座ならともかく、何もせずに転がり込んできたベルトに村田も心中複雑だろう。
所属する帝拳ジムのホームページでは「こればかりは、どうして?という気持ちもありますが、ネガティブなことではなくて、むしろこうなったことで統一戦、例えばIBFなどは最上位のチャンピオンでないと統一戦を認めないというルールもありますし、ビッグマッチの実現性というのは高まった訳で、そこを見た方が考え方としても有意義だと思うし、自分の気持ちの持っていきようとしても良いと思っている」と努めて前向きに捉えようとする胸の内を明かしている。
実際、今秋にIBFミドル級王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との統一戦を目指す方向性が示されている。IBF(国際ボクシング連盟)は他団体との統一戦は最上位の王者としか認めておらず、アルバレスがスーパー王者でいる限り、正規王者の村田には統一戦のチャンスがなかった。
しかし、今回期せずしてスーパー王者となったことで、世界的にも名高いゴロフキンと統一戦を行うことが可能になったのだ。昇格の経緯はともかく、より強い相手との対戦を望む村田にとっては「棚ぼた」と言えるだろう。
軽量級と重量級の間に設置されたミドル級
ところで、村田が戦うミドル級はリミットが72.57キロ(160ポンド)で、日本では最重量級。にもかかわらず、「中間」を意味するミドルとはどういうことなのだろうか。
ボクシングの階級制が導入された当初に設置されたのが、ヘビー級(重量級)とライト級(軽量級)。「ライト」といっても欧米人サイズで、リミットは61.23キロ(135ポンド)だから日本では中量級にあたるが、その後、重量級と軽量級の間に設置された新階級が「ミドル級」と称された。
さらにヘビー級とミドル級の間には79.38キロ(175ポンド)以下のライトヘビー級、ミドル級とライト級の間には66.68キロ(147ポンド)以下のウェルター級、ライト級以下にも57.15キロ(126ポンド)以下のフェザー級、53.52キロ(118ポンド)以下のバンタム級、50.8キロ(112ポンド)以下のフライ級が設置され、全8階級となった。
階級細分化の流れは止まらず、それぞれの間に「スーパー○○級(かつてはジュニア○○級)」ができ、全17階級が定着した。
最も新しいミニマム級はリミット47.62キロ(105ポンド)で、井岡弘樹が1987年にWBCの初代王者となった当初は、「藁(わら)」を意味するストロー級という名称だった。ちなみにフライは「ハエ」、バンタムは「チャボ(小型の鶏)」、フェザーは「羽」を意味している。羽より軽いものはない気がするが、ご愛嬌ということにしておこう。
WBCは「ブリッジャー級」新設
また驚くことにWBC(世界ボクシング評議会)は昨年11月、90.72キロ(200ポンド)以下のクルーザー級とヘビー級の間に、18階級目となる「ブリッジャー級」を新設。リミットは101.6キロ(224ポンド)に定めた。
従来は200ポンドを超える選手はヘビー級だったが、WBCヘビー級に限っては224ポンドを超える大男で争うことになる。例えば、元世界ヘビー級王者マイク・タイソンは現役時代、99キロで戦うことが多かったが、今ならブリッジャー級ということになる。
当然ながら批判の声が多く、定着するかは流動的。今後、WBAやIBF、WBO(世界ボクシング機構)も追随するか不明だが、団体によって体重上限が違うと何かとややこしく、ファンを混乱させることは目に見えている。
ちなみにブリッジャーとは、野良犬から妹を助けた6歳のアメリカ人少年ブリッジャー・ウォーカー君に由来するという。ブリッジャー級のWBCランキングはすでに公開されているが、まだチャンピオンは誕生していない。
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