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得点量と得点回数で振り返る2017年プロ野球(上)~ソフトバンク一強パ・リーグ編~

2017 12/22 16:14松本 健太郎
得点量と得点回数で振り返る2017年プロ野球(上)~ソフトバンク一強パ・リーグ編~
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Photo by EHStockphoto/Shutterstock.com


圧倒的な戦力を誇り、2勝1敗ペースで勝ち続けた最強ソフトバンク。まさかの逆転勝利でクライマックスシリーズから成り上がった横浜DeNA。

両チームの激突で幕を開けた2017年の日本シリーズは、4勝2敗で福岡ソフトバンクホークスが優勝しましたが、横浜DeNAラミレス監督の采配がズバリ的中して、圧倒的な戦力差を感じさせない試合が続きました。

2017年全てのイベントが終わった今こそ、セ・パ両リーグの戦いぶりを振り返る良い機会と言えるでしょう。そこで今回は、データに焦点を絞って各チームの特徴をザックリ掴んでみたいと思います。

野球をデータサイエンスとして定義する

セイバーメトリクスという単語を一躍知らしめたビリー・ビーン氏は野球を「27個のアウトを取られるまでは終わらない競技」と定義した、と言われています。

しかし私は少し違うと考えています。なぜなら、野球には「イニング」という概念があるからです。

したがって、正確には「1イニングにつき3個のアウトを取られるまで攻撃を終わらず、それを9イニング続ける競技」だと考えるべきでしょう。つまり考えるべきは、攻撃する側であれば3個のアウトを取られる前にいかに塁に出るか、塁に出たランナーをいかにホームに返すか、なのです。

これを確率で考えてみましょう。

プロ野球における平均的な出塁率を.333だと仮定します。つまり打者のうち3人に1人は塁に出るのです。考え方を変えれば、3人に2人は塁に出られません。

3個のアウトを取りますから、3回打者が打席に立つと考えます。

1イニングにつき1度もランナーが出ない確率は2/3×2/3×2/3・・・8/27になります。つまり27回中たった8回のみ、誰も塁に出ないという機会が発生します。

言い換えると、確率的には1イニングにおいて27回中19回は誰かしら塁に出るのです。

とすると、ランナーをいかにホームに返さないかは大事ですが、失点はやむを得ないものと考えて、1イニングにおける失点量を少なくする(得点量を多くする)、そして9イニング中何回も失点しない(得点する)のも大事だと分かります。

そこで、2017年のプロ野球公式戦(交流戦含む)の試合を「1イニングあたり得失点量」と、「1試合あたり得失点回数」というマクロな観点で分析してみました。(ただし延長戦の場合は9回までを対象に計算しています)

強いチームには、どのような傾向が表れているでしょうか。

パ・リーグを分析してみた(1イニングにおける得失点量)

今回はパ・リーグの結果から共有します。

まずは、1イニングにおける得点量から計算してみました。

1イニングにおける得失点量

これだとよく分からないので、1イニングあたり平均得点量(1点以上得点したイニングに限る)を計算します。結果は以下のグラフの通りです。

1イニング平均得点量

仮に9イニング連続で得点したとなると、西武とソフトバンクで約1点の違いが生まれます。西武と日本ハム・ロッテで約2点の違いですから、かなり大きな差です。2017年の西武打線が強力だったが分かります。

続いて1イニングにおける失点量を計算してみました。

1イニングにおける失点量

同じく、1イニングあたり平均失点量(1点以上失点したイニングに限る)を計算します。結果は以下のグラフの通りです。

1イニング平均失点量

少し面白い結果になりました。

オリックスの総失点は598点、防御率は3.83でリーグ5位ですが、平均失点量で見るとリーグ2位となります。つまり1イニングあたりの失点数は少ないものの、何回も失点していることを意味しています。

また、平均得失点量を合算すると、楽天は-0.02点に対して、オリックスは0.02点になります。両チームは勝ち星で14勝の差がありますが、得失点量だけで見ればオリックスのほうが優れているという結果になります。

この点から、1試合あたり得失点の回数という「重み付け」が実は重要だとわかります。

パ・リーグを分析してみた(1試合あたり得失点回数)

というわけで、今度は1試合あたりの得点回数を計算してみました。その結果、λ=1.5~2のポアソン分布のような結果となりました。

得点回数の分布

得点回数の分布

どうやらソフトバンクは完封負けがかなり少ないようです。下位チームの3分の1以下という結果です。

基本的に得点回数は1回~3回に集中しているようですが、チームによってはバラつきが出ています。同じように平均得点回数を算出してみました。

1試合あたり平均得点回数

ソフトバンクより西武の方が、平均得点回数が多いという結果になりました。1試合につき6イニングも得点を入れた試合が6回もあったことも影響しているかもしれません。

ソフトバンクや西武は、どの打者からでも得点をあげられる打線だったと言えるでしょう。一方のロッテは得点をあげる打者が限定的だったと言えます。

続いて1試合あたりの失点回数を計算してみました。

失点回数の分布

失点回数の分布

西武がM字を描いた珍しい推移を描いています。これは、息詰まる投手戦と、サンドバック並みにボコボコ打たれた試合の極端に別れた傾向を示しているのではないでしょうか。

言い方を変えれば、西武は「打たれる回数」を減らせば、楽天との3位争いではなく、ソフトバンクとの優勝争いができた可能性があります。

平均失点回数も産出してみました。

1試合あたり平均失点回数

思っていた通り、オリックスは平均失点回数が高かったですね。

平均得失点回数×平均得失点量から分かるチームの特徴

平均得失点回数と平均得失点量の散布図をそれぞれ描くと、以下のようになります。

1試合あたり平均失点回数

チームの打力を「打線が繋がる(≒得点量)」「どこからでも得点をあげる(≒得点回数)」だと定義すると、この2つの変数は比例する関係にあると思われます。

そんな中、西武がいかに突出しているかが分かります。

失点量(横)×失点回数(縦)

一方、チームの投手力を「打者を抑える力が無い(≒失点量)」「先発・中継ぎ・抑えの駒が揃っていない(≒失点回数)」だと定義すると、この2つの変数は打力のように比例する関係にあるとは言えなさそうです。

少なくともオリックス・楽天は、継投策が上手いのか、投手コーチの手腕なのか、何かがあると言えそうです。投手力、継投に焦点を絞って分析をすると面白いかもしれません。

平均から踏まえて偏りを見ていく

平均得失点回数と平均得失点量を掛け合わせると、1試合あたりの平均得失点になるので、その結果に2017年シーズンの143試合を掛けてみると、各チームの得失点とほぼ完全に一致します。

そりゃ、そうだ。

平均から踏まえて偏りを見ていく

しかし、データはあくまで平均であり、何イニング目かによる偏りが現れます。その偏りがチームの最大の短所であり長所でもあります。

最後にイニング別の得失点を見ておきましょう。

イニング毎得点

西武の打線が面白いのは、3イニング~4イニング目に大きく得点を挙げる傾向にある点です。恐らく投手の癖を盗むのが上手いコーチがいるのでしょう。

一方のソフトバンクですが、初回得点のケースが多いようです。一方で、6回に一度カクンと得点が減っているので、このあたりは3打順目5~9番と考えると、やはり打線の切れ目はあるなぁと考えられます。

次に失点を見てみましょう。

イニング毎失点

どうした日本ハム、という感じですね。前半の3イニング目に投手陣が崩れています。ロッテ、オリックスは後半の7イニング目ですね。

結論

「負けに不思議の負けなし」とは野村克也元監督の名言です。

負けるには負けるなりの理由があります。すなわち、負けているチームの特徴、傾向をマクロ・ミクロ双方の観点から分析することで、敗者は強者に挑戦する資格をチャンスに変えられるのです。

具体的なチーム単位の分析は次々回以降に回すとして、次回はセ・リーグの分析に挑戦したいと思います。


《関連データ》プロ野球 順位表


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