ケガからの復活期す大学ラストシーズン
今秋のリーグ戦初戦(9月7日・近畿大戦)のまっさらなマウンドに金丸夢斗の姿はなかった。今春のリーグ戦中に腰の『骨挫傷』を負った左腕は、秋に完全復活を期すべく、今夏選出されていた大学日本代表を辞退するなど回復に努めたが、開幕には間に合わなかった。
「もちろん先発はしたかったですけど、体と相談しながら今回は後ろ(中継ぎ)という形に」
秋4連覇がかかる今季、チームは第4節終了時点で4勝4敗、勝ち点1の3位(首位は関西学院大、6勝1敗1分、勝ち点3)。大エースが中継ぎに回ったことが影響してか、開幕節から2節連続で勝ち点を落とすなど苦しい戦いを強いられている。この状況を一番歯がゆく感じているのは、他ならぬ金丸自身だろう。
「(開幕から)負けが続いてしまったんですけど、まだ優勝の可能性がゼロというわけではないので。これから全勝して少しでも優勝に望みをつなげられるように、チームに少しでも貢献できたらと思っています」
中継ぎに回った金丸の今季初登板は9月8日の近大2回戦、2点リードの9回に3番手としてマウンドへ。2本の安打と死球で一死満塁のピンチを作るも、後続をセカンドフライと空振り三振に切って取り、無失点で締めた。
翌週の立命館大戦では2回戦、3回戦で連投。特に2戦目は復帰後最長となる3イニング、52球を投げて1安打5奪三振無失点と、本調子ではない中でも打者を圧倒する投球を披露した。
「状態もよくなってきています。投げていく中で指先の感覚などを取り戻していくことが少しずつできてきました。まだまだこれからですけど、しっかりと元の状態に戻していけたら」
続く第3節の同志社大戦でも2戦連続で抑えとして最終回のマウンドに上がり、いずれも1回無失点投球でチームに今季初の勝ち点をもたらした。10月からの先発復帰を見据え、ここまでは順調に実戦登板を重ねている。
最速154キロの出力と高い制球力を共存させる秘訣
今季はまだ完全体での投球を見せることはできていないが、1年秋にリーグ戦デビューを果たしてから4年春までに残した実績は圧巻そのもの。2年春から18連勝を記録するなど通算で20勝3敗、防御率0.88。昨秋からの64イニング連続自責点ゼロは今なお継続中だ。
直球の最速は154キロ、4種類の変化球(スライダー、カーブ、チェンジアップ、スプリット)はいずれも決め球として使えるキレを持ち、奪三振率11.78と高い奪三振能力を誇る。中でも特筆すべきはその制球力。1年秋から今春終了時で通算224.2イニングを投げ、四死球はわずか「39」、四死球率は1.56とまさに精密機械だ。
150キロ以上を計測する出力と制球力が高い次元で共存するその投球は、どのようにして生み出されているのだろうか。その秘訣は日々の練習の中にあった。
1つ目が大小2種類のボールを使用するキャッチボールだ。
「2つとも比較的重いボールで、1つがソフトボールの大きさ、もう1つは硬球と同じ大きさです。最初に大きいボールを使って指先だけで投げるのではなく、手の中心から投げる、手の中心から指先が出ているようなイメージで投げることを意識しています。
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出力が上がってくる中で、150キロを投げられるようになってから高めにいくケースが多くなって。そこを指先の力だけで抑えてしまうと球の質が悪くなる。そこで、手の中心からボールを離す意識を持つために、大きいボールを使って指先だけでは投げない意識をつけるようにしました」
呼吸から基本的な体の使い方見直す
2つ目は体の使い方、体幹への意識を強める独自のトレーニング法だ。
「3年生の春のリーグ戦の途中に膝をケガしてしまって。そこから自分のフォームなどをもう1度見直して、練習方法もガラッと変えました。それまではウエイトとか結構きついトレーニングをたくさんしていたんですけど、基本的な体の使い方をもう一度見直そうと」
その意識は呼吸にまで及ぶ。日々のトレーニングに「力まずに効率よく息を吸う」ため、ストローを口にくわえて行うエクササイズを取り入れている。
「呼吸からしっかりと体を整えるというか、軸や重心といったものを自分の体でしっかりと感じられるようにするためです。ストローを使って呼吸を大事にすることで、コントロールやピッチングフォームの安定感につながってくると思っているので、毎日やるようにしています」
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さらに、投球につなげるための創意工夫も欠かさない。取材時の練習ではストローをくわえたまま、三点倒立も行っていた。
「ピッチングはマウンドからの投球になるので、不安定な状態でリリース時に100パーセントの力を持っていく必要があります。どんな状態でも軸や重心を整える作業ができるようにと、その1つのパターンとして三点倒立を取り入れています」
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「手の中心から投げる」という独特のリリース感覚と「どんな状態でも軸や重心を整える」バランス感覚。日々のトレーニングにより研ぎ澄まされた身体感覚が、プロのスカウトをもうならせるハイレベルな投球の源泉となっている。
わずかに可能性残る4連覇へ「最後まで投げ切りたい」
このように日々自身の体と向き合い、その日の状態を確認している金丸だったが、今春のリーグ戦では腰にケガを負ってしまった。その原因について「自分の今の出力に筋力であったりとか体の強さであったりというのが、まだ追いついていない」と自己分析。リハビリ期間ではその改善に努めた。
「腰に負担がかかるということは体幹の弱さ、腹圧とかお腹周りとか、そのあたりの弱さがあったというのは間違いないので。まずはそこからもう一度見直して、トレーニングをやりました」
その取り組みの成果は実戦を通して既に実感している。
「今まで以上に力感なく投げてもそこそこ質のいいボールが投げられているので、そこは少し成果が出ているのかなと」
怪我に悩まされた4カ月間は決して無駄ではなかった。そう胸を張って言えるようになるためには、10月からの残り2節、本来の持ち場である先発に復帰し、スコアボードにゼロを並べ続ける必要がある。
「全部勝って少しでも優勝に近づけるように、今まで支えてくださった方に感謝の気持ち、恩返しする気持ちで最後まで投げ切りたい」と力強く語ったエース左腕。秋3連覇中の王者の逆襲がここから始まる。
≪後編につづく≫
後編では平凡だったと語る少年時代からの進化の軌跡と目前に迫ったドラフトへの思いに迫る。
【インタビュー後編】
関西大・金丸夢斗インタビュー②「ドラ1でプロ」実現へ、苦難を成長の糧とする世代最強左腕
実際のインタビューでは、本記事には載せきれなかったワインドアップへのこだわりや、趣味、好きな音楽などプライベートな内容まで明かしてくれています。ぜひ下記の動画も合わせてご覧ください。
《プロフィール》
金丸 夢斗(かねまる・ゆめと)2003年2月1日生まれ。兵庫県神戸市出身。177センチ、77キロ。左投げ左打ち。小学1年から野球を始め、広陵中では軟式でプレー。神港橘高では1年秋に先発デビューし、コロナ禍に見舞われた3年夏は兵庫県の独自大会でベスト8入り。関大では1年秋にデビューし、3年秋に最優秀投手に選ばれるなどベストナイン3回、MVP2回受賞。今年3月には侍ジャパントップチームに選出され、欧州代表戦で2回をパーフェクトに抑えた。
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