近畿大学から自由獲得枠で日本ハム入団した糸井氏
プロ野球ドラフト会議が10月26日に開催される。プロ入りを目指して厳しいトレーニングを乗り越えてきたアマチュア選手にとっては運命の一日だ。
希望の球団から指名されて喜ぶ選手がいれば、記者会見場で待ちながら指名がなく涙をこぼす選手もおり、毎年のように悲喜こもごものドラマがある。プロ野球OBの糸井嘉男氏は2003年、近畿大学の剛腕投手としてその日を迎えた。
4年春のリーグ戦で2完封を含む5勝無敗と活躍し、MVP、最優秀投手、ベストナインに輝くなど関西学生リーグで通算9勝をマーク。当時はドラフト1位クラスは自由競争で、ドラフト会議前に自由獲得枠での日本ハム入りが決まった。
「高校時代から最初にスカウトの方が来てくれたのが日本ハムだったので、それで決めたところもありましたね。それと翌年から北海道に移転する年で魅力も感じていました。ちょうど新庄さんも入る年でした」
身長188センチの大型右腕を欲しがる球団は多かったが、かねてから熱心にラブコールを受けていた日本ハムが2004年から札幌ドームに本拠地を移転することもあり、入団を決めた。ニューヨーク・メッツを退団していた新庄剛志が日本ハム移籍を決めたのも同じタイミングだった。
高校時代に11球団から声かかるも近大進学
2003年11月19日のドラフト当日。すでに記者会見を開いて自由獲得枠での日本ハム入団を発表していた糸井氏はどんな心境だったのだろうか。
「分かってたとはいえ、ドラフト会議で名前を呼ばれた時は感動しました。夢見てたことですからね。プロに入ると、あれはスタートラインに立っただけのことで、入ってからの方が大事だと分かるんですが、それがないとスタートもできないんで、やっぱり嬉しかったです」
実は京都・宮津高時代も11球団から声をかけられていた。甲子園にも出場していない公立高校の投手がいかに高く評価されていたかを物語るが、糸井氏は「ドラフト1位でプロに行きたいという夢があったんで、それに向けて大学でもっと成長したいと思ったんです」と近大進学を決意。余談だが、11球団のうち西武だけが野手として評価していたという。
そんな経緯があっただけに、4年かけて事実上1位の自由獲得枠でプロ入りを果たしたのは、夢の実現と言ってもよかった。「ローテーションを守って10勝したいみたいな目標はありましたね」と当時を振り返る。
近大の同級生だった田中雅彦捕手もロッテから4巡目指名を受けた。「人の指名を待つのも緊張しますよね。早く田中を呼んでほしいなと思ってました」と懐かしむ。
「目標にしていた」九州共立大・馬原孝浩
日本ハムの同期入団は浦和学院高の左腕・須永英輝、日産自動車の右腕・押本健彦、JFE西日本の内野手・稲田直人ら豪華メンバー。他球団を見渡しても、巨人は東京ガス・内海哲也、阪神は早稲田大・鳥谷敬、ヤクルトは八戸大・川島亮、近鉄は東芝・香月良太らそうそうたる面々だった。
中でも糸井氏が特に意識していたのは、ダイエーに自由枠で入団した九州共立大・馬原孝浩。4年時の大学選手権初戦で投げ負け、プロ入り後も182セーブを挙げた右の剛腕だ。
「馬原は僕の中ではすごい存在でしたね。当時はピッチャーしか興味なかったんで、馬原はずっと追いかけてたというか、一番気になった存在でしたし、目標にもしてましたね。真っすぐが速いし、スライダーがえぐいんで、憧れに近いものがありました」
プロ入り後は2013年から3年間、オリックスでチームメイトとしてプレー。野手に転向して実績を残しながらトレードで移籍した糸井氏と、FA宣言した寺原隼人の人的補償で移籍した馬原が、同じタイミングで同じユニフォームを着るとは運命のいたずらか。
2014年には糸井氏が打率.331で首位打者、馬原は55試合登板で32ホールドを挙げる活躍で、最後までソフトバンクと優勝を争った。糸井氏は「やっぱりすごいピッチャーでしたね」と振り返る。
近大の後輩・坂下翔馬と梅元直哉がプロ志望届
今年は近大の坂下翔馬内野手と梅元直哉投手がプロ志望届を提出している。坂下は智弁学園高時代に大船渡・佐々木朗希(現ロッテ)、星稜・奥川恭伸(現ヤクルト)らのいた高校日本代表で主将を務め、U-18W杯に出場した実績を持つ。
「やっぱり、すでにプロで活躍してる同級生の中に入って、やりたいんじゃないかなと思います。僕は応援してますよ」と後輩が気になる様子。プロ入りの夢を叶えたい心境は痛いほど分かるだろう。
最後にドラフトを待つ全てのアマチュア選手へのメッセージを依頼すると、糸井氏はこう話した。
「今までの努力が実ってほしいですね。そこからスタートラインに立つわけですけど、1位から育成までありますが、入ったらスタートラインは一緒です。必死な努力は嘘をつかないと思います。入ってからの方が大事なので、プロに入ったら必死になって頑張ってほしいなと思います」
「運命の一日」ドラフトはゴールではない。あくまでスタートなのだ。投手として希望を胸にプロ入りしたものの、野手に転向して苦労の末に成功を収めた糸井氏のメッセージが、全ての指名選手に届くことを切に願っている。
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