「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

糸井嘉男氏、実はデータを有効活用していた「超人」の現役時代

プロ野球

このエントリーをはてなブックマークに追加
糸井嘉男氏

かつてプロ野球の日本ハム、オリックス、阪神でプレーした糸井嘉男氏は「超人」という愛称から直感的なプレーが多かったイメージがありますが、実は現役時代はデータを有効活用。盗塁王のタイトルを獲得した裏にはデータが役立ったエピソードも飛び出しました。


【ゲスト】

元日本ハム、オリックス、阪神外野手

糸井嘉男

1981年7月31日、京都府出身。京都府立宮津高から近畿大に進み、投手として関西学生リーグで通算9勝をマーク。2003年ドラフト自由獲得枠で日本ハムに入団後、野手転向。2013年にトレードでオリックスに移籍、2017年からFAで阪神に移籍し、2022年に現役引退した。通算1727試合出場、打率.297、1755安打、171本塁打、765打点、300盗塁。

■データを活かして先頭打者初球ホームラン

――オールスターゲーム2試合でSPAIAのプロ野球勝敗予想に挑戦していただきましたが、難しかったですか?

糸井:難しいですね。絶対はないけど、その中でいろんなデータを見て選ばせてもらいました。面白いですね。ただ、糸井AIはどうなんでしょう(笑)

――現役時代、データを活用して投手を攻略したエピソードはありますか?

糸井:みんなiPadを持って、いろんな映像を見たり、データを見たりしています。すごい活用してるし、役立ちますね。特に僕の場合は盗塁王を獲った時とか、盗塁でも役立ちました。このカウントでは変化球が多いとか、外してくるとか。今、メジャーリーグでもベンチで大谷君がiPadを見てますよね。

オリックス時代、札幌ドームの日本ハム戦で一番に入って、メンドーサから1打席目の初球ホームランを打ったことがあります。なかなかプレーボールの初球って振りづらいけど、真っすぐで入ってくるというデータがあったんで、思い切って初球から真っすぐを打ったらホームランになりました。打者は迷いなく打ちたいもの。迷いをなくすにはデータが必要です。

――現役時代の先頭打者初球ホームランは唯一ですか?

糸井:唯一です。一番はあまり打たなかったんで。

――打者ならどの辺を一番重視するんですか?

糸井:まず映像を見ます。投手の投げるタイミングは見るし、やっぱり配球ですね。

――その通りに来るんですか?

糸井:いや、来ないです。自分の中でこのカウントで何が来るかと踏ん切りつけるために見るんです。打者はどっちかなとなった瞬間に終わりなんで迷いたくないんです。自分の中の決め手ですよね。

――追い込まれた時に投手得意の決め球が多いからとか?

糸井:追い込まれたら全部待ちます。追い込まれるまでですね。

――試合前に先発投手のデータは頭に入れておくんですか?

糸井:先発以外も中継ぎとか全投手です。

――移動中など普段からデータをインプットしておくわけですね。

糸井:そうですね。iPadを渡されてるんで、どこでも見られますし。試合後にご飯行きながらでも見たりします。

――移動の新幹線でも?

糸井:もちろんです。お笑いを見たりもしますけどね。

――試合中に投手が代わったタイミングで見ているのは何を確認してるんですか?

糸井:まず球種です。左打者にはこの球種が多いとか、大雑把なところですね。このカウントでどの球種が多いとかまでは代わった時は見ません。ピンチでは何が多いとかくらいです。

■データがあっても打てなかった大谷のスライダー

――データがあるにもかかわらず打てなかったことは?

糸井:もちろんありますよ。印象に残っているのは大谷君ですね。データで何が来るとか、スライダーが来ると思ってても、大谷君のスライダーって見たことないスライダーなんです。分かっていても打てないことももちろんあります。今、スイーパーって言われてますけど、当時はスライダーという名前。ビックリするくらいの球でした。

――曲がり幅が大きいんですか?

糸井:大きいですね。大きいし、速いし。

――狙っているにもかかわらず打てないわけですね。

糸井:打てない。狙っててデータも当たってる。それが来た。でも、打てないということは全然あります。それが当たったからといって打てるわけではない。技術も必要ですから。

――技術を活かすためにデータがあると。

糸井:もちろん、そうです。

――投手の回転数などのデータも有効なんでしょうか?

糸井:凄い変化球を投げる投手の回転数は凄いですよね。例えばモイネロ選手のカーブとか。凄い数字が出てました。

――ソフトバンク石川柊太投手のパワーカーブとか?

糸井:凄いですよ。

糸井嘉男SPAIA公式シニアアンバサダー

ⒸSPAIA


■3球勝負の代打はデータがないと振れない

――盗塁でもデータが役立ったということですが、投手の癖もデータで出るんですか?

糸井:当時はありましたね。このカウントになれば牽制が多くなるとか。ランナーは牽制が100%ないと分かっただけでスタートが切りやすいんです。踏ん切りがいるんで。この配球では牽制がないとデータで出たりしています。

――スコアラーから出てくるんですか?

糸井:プロ野球っていろんな班があって、スコアラーもそうですし、データの人もいますし、毎回先乗りして次に当たるチームのビデオを撮ったりする裏方さんもいます。

――ホームランバッターはデータよりもパワーやスイングスピードがクローズアップされやすいですね。

糸井:そういう傾向はありますね。自分の技術を上げる、スイングスピードを上げる、まずはこれらが重要になりますからね。

――データを活用しない選手はいないんですか?

糸井:いないんじゃないですか。細かいところまで見る選手と見ない選手は分かれますけど、全く見ない選手はいないと思います。

――逆にデータをものすごく活かしている選手は?

糸井:代打の選手とかですね。3球勝負なので。去年までチームメイトだった原口選手なんかは緻密に見てますよ。僕は大雑把な方だったんで勉強になりました。原口選手はこのカウントならこれとか決めてました。じゃないと、勝負所で代打に出た時に踏ん切りをつけて振れない。レギュラーで4打席じゃないし、1週間出ない時もあるんで。その中の1打席で振るのは凄いことです。

■データがあるからこそ一歩だけ守備位置を変えられる

――守備でもデータは使うんですか?

糸井:メチャクチャあります。守備の方が確率は高いです。打球の飛んでくる方向とか、引っ張る打者だったらほぼ引っ張りなんで、当たりやすいですね。打者によって守備位置を寄ったりします。

――メジャーリーグでは去年まで極端なシフト敷くこともありました。

糸井:極端に寄られたら、男やったらそこを抜いてやろうと思うかも知れませんね。

――空いたところを狙えないものなんですか?

糸井:DeNAがラミレス監督の時は僕の打席でも凄い寄ってました。(空いている)あっちを狙ったろかなとか思いますけど、空いていない方に打たせる配球なんで難しいですね。

――守りづらい打者はいましたか?

糸井:外国人選手は打球が揺れたり、打球が速い選手は守る方も嫌ですね。大谷君とかゴロも速いし、メチャクチャ嫌だと思います。

――DeNAの宮﨑選手などは広角打法なんで、どこに飛んでくるか分からないですよね?

糸井:守りづらいというのはないですけど、たまに振り遅れた感じでも飛んできます。広角に打てる打者は追い込まれたらこっち方面とか、守備位置を寄ったりします。ちょっとですけどね。その一歩が大事なんで。守りづらいという点では、パワーのある打者の方が変な打球回転をするので守りづらかったです。

■契約更改交渉でもデータは役立つ

――データを活かすというと契約更改もそうですよね?

糸井:メチャ見ました。あの選手はこの成績でこれだけアップしたとか比較しました。代理人はそういう資料を持ってるんで、データは大事ですよね。

――球団側もデータを元に査定してるんですか?

糸井:これは何ポイントです、この守備はポイント上げてますとか、球団から表を見せられて選手は契約を更改します。1年分見せられます。

――全試合あるんですか?

糸井:あります。細かくあります。

――どの球団も同じなんでしょうか?

糸井:FA権を取ったり、ある程度年俸をもらいだすと丼勘定になるような気がします。

――今後データがより一層、野球界に浸透すると、選手にとってもアピール材料になりますね。

糸井:そうですね。メジャーリーグが参考じゃないですけど、ベンチでiPad見てますね。日本で試合中にベンチで見てたら「裏で見ろ」って怒られそう。裏で見てたら「ベンチにおらんと何してんねん」と言われそうですけどね(笑)

SPAIAch ~スポーツPlus~
【スペシャルインタビュー】糸井嘉男氏 データを有効活用していた「超人」の現役時代

このエントリーをはてなブックマークに追加