好成績を残したが故の史上4例目の珍事
日本ハムを自由契約となっていた金子千尋投手（39）が23日、札幌市内で会見を行い、今季限りでの現役引退を発表した。
会見では「今シーズンをもちまして、現役生活を引退することに決めました。オリックスで14年、ファイターズで4年間、順風満帆といえる成績ではなかったかもしれませんが、入団した時の自分を考えると、よくやったのではないかと今改めて思います」と自身のプロ野球人生を振り返った。
ただ、その言葉とは裏腹に右腕が残した足跡は輝かしい。特に、オリックス時代は長年エースとして君臨し、2014年には16勝5敗、防御率1.98で球団史上初の沢村賞に輝いたほか、最優秀防御率、最優秀選手、ベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得するなど大車輪の活躍を見せた。
まさに球界を代表するエースともいえる成績を残してきた金子だが、好成績を残したがゆえの珍事件も起こしている。
時は遡って2013年、2年ぶり3度目の開幕投手を務めた金子はこの年絶好調で、2010年以来2度目の200イニング超えを達成した。投球回（223.1）・完投数（10）・登板数（29）・奪三振（200）はリーグトップ。勝利数（15）、防御率（2.01）はリーグ2位、勝率（.652）はリーグ3位の好成績を残し、沢村賞の選考基準の全7項目をクリアしたのだ。
しかし、沢村賞を受賞したのは、田中将大（楽天）だった。完投数（8）では選考基準を下回ったが、NPB史上4人目のシーズン無敗で最多勝（24）、最高勝率（1.000）、最優秀防御率（1.27）に輝き、圧巻の成績を残したため、満場一致での選出となった。
全項目を満たしながら沢村賞を受賞できなかったのは、上記の選考基準が設けられた1982年以降では、1982年の江川卓（巨人）、2008年・2011年のダルビッシュ有（日本ハム）に続いて、この時の金子が4例目と、まさに珍事だった。
ノーノー未遂と異端のMVP選出
また、ファンの記憶に残る珍事として「ノーヒットノーラン未遂」がある。今季、中日の大野雄大が5月6日の阪神戦で9回完全投球を見せながらも、味方の援護なく延長10回に安打を許し、完全試合の大記録を逃したのは記憶に新しい。金子もオリックス時代の2014年に悲劇的なノーノー未遂事件を起こしている。
5月31日、セパ交流戦の巨人戦（京セラD大阪）で先発した右腕は、9回を4四球、1失策の無安打無得点に抑える快投。9回裏にチームが1点取ることができればサヨナラ勝ちとなり、ノーノー達成という状況にまで迫った。
しかし、9回裏一死二塁の一打サヨナラのチャンスで自身の打席（※）が回ってきたため、代打に駿太を送られ交代。その後チームは得点できず、試合は延長戦に突入したため、大記録達成を逃したのだった。
※この年の交流戦は、10周年記念でセ・リーグ球団のホームゲームのみDH制を採用。
またこの2014年は、シーズン終了後にも珍事が起きた。パ・リーグのシーズンMVPに金子が選ばれたのだ。この年ペナントを制したのはソフトバンク。パ・リーグで優勝チームからMVPが選ばれなかったのは、西武が優勝した2008年以来、6年ぶりのことだった。
前述した通り、金子はこの年、最優秀防御率（1.98）、最多勝（16）、ベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得。前年に逃した沢村賞も受賞する抜群の成績を残していた。一方、優勝したソフトバンクはチーム力では抜けていたが、個人で突出した成績を残した選手がいなかった。そのため、印象度で上回った金子が選出される形となったのだった。
なお、パ・リーグで優勝チーム以外からMVPが選出されたのは、金子で8人目。過去には、野村克也（南海、1963年）、木田勇（日本ハム、1980年）、落合博満（ロッテ、1982年・1985年）、門田博光（南海、1988年）、野茂英雄（近鉄、1990年）、イチロー（オリックス、1994年）、岩隈久志（楽天、2008年）がおり、金子以来、優勝チーム以外からは選出されていない。
金子は引退会見で今後についても言及。日本ハムで特命コーチという形で、アメリカへコーチ留学に行くことを発表した。「自分が現役中にやっていたからやれというような、根拠のない指導はしたくないと思っています。スケールの大きい選手を1人でも多く育てられたら」と指導者としての目標も語っていた。
記録にも記憶にも残る実績を残した右腕が指導者としてどのような投手を育てるのか、今から楽しみでならない。
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