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【日本一サブストーリー】痛恨被弾のオリックス阿部翔太に「元祖おじさんルーキー」が贈った金言

オリックスの阿部翔太と下山真二スカウト,ⒸSPAIA
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日本シリーズ第2戦で内山壮真に同点弾

大歓声と悲鳴が交錯したのが日本シリーズ第2戦の9回だった。3-0でリードしたオリックスは阿部翔太が登板。逆転優勝を決めた10月2日の楽天戦で最後を締め、ソフトバンクとのクライマックスシリーズでも9回を任された新クローザーだった。

しかし、シリーズの重圧なのか無死一、二塁のピンチを招き、打席に迎えたのは代打・内山壮真。カウント2-2からの6球目、141キロのストレートが真ん中高めに浮いた。内山が強振すると打球はレフトスタンドに吸い込まれる。まさかの同点被弾。阿部はマウンドでがっくりとうなだれた。

完全に流れはヤクルトに傾いたが、阿部はすぐに気持ちを切り替え、続く山田哲人、村上宗隆、オスナの強力クリーンアップを封じた。結果は延長12回、3-3の引き分け。テレビ中継の映像にはベンチで唇をかむ阿部の表情が何度も映し出され、ネット上には心ない誹謗中傷もあった。

翌日、阿部がプロ入りした時の担当スカウトだった下山真二チーフスカウトが電話をかけた。「絶対にやり返します」。強気な性格の阿部は電話口でそう言うと、下山スカウトは普段と変わらない口調で伝えた。

「冷静にスタイルを貫け」

負けん気の強い阿部はプロ向き、もっと言えばクローザー向きの性格だが、それゆえカッとなって冷静さを失うリスクをはらむ。獲得に携わった選手の活躍を願うからこそ、下山スカウトは阿部の強気な性格を認めつつ注文も忘れなかった。実は2人には共通点が多く、強い絆で結ばれている。

共通点の多い下山真二スカウト

阿部は京セラドーム大阪にほど近い大阪市大正区出身の29歳。11月には30歳の誕生日を迎える。山形・酒田南高から成美大(現福知山公立大)を経て日本生命で6年間プレー。プロ入りした時にはすでに28歳の妻子持ちになっていた遅咲きだ。

一方の下山スカウトも現役時代は兵庫・社高から立命館大を経て日本生命でプレー。2002年ドラフト8位で近鉄入りした時はすでに27歳だった。球団合併に伴ってオリックスに移籍し、36歳で引退するまで556試合に出場、打率.260、45本塁打166打点をマークした。

「おじさんルーキー」と呼ばれた下山スカウトにとって、阿部は日本生命の後輩にあたり、高齢でプロ入りした点も共通する。ドラフト指名する際には「プロで通用すると思うから獲る。28でもプロに行って活躍できるとなったらアマチュア選手たちの希望になるし、レベルアップにつながる。それを背負って頑張れ」と発破をかけた。

学生時代から諦めることなくプロを目指していた阿部も「金はいらないです」と言うほど気合と覚悟は十分。大企業の安定を捨て、晴れて28歳の子持ちルーキーが誕生した。

「40歳までやってほしい」

しかし、プロの世界は厳しかった。1年目の2021年はわずか4試合の登板で1勝も挙げることができず、防御率7.36。見事にプロの壁にはね返された。

球界最高の投手に上り詰めた山本由伸を筆頭に、オリックスには150キロを投げる投手がゴロゴロいる。阿部はライバルに勝つために球速アップを試みたが、結果的にはそれが裏目に出て、右肘を痛めた。

2022年、本来の持ち味であるコントロールを磨くことにシフトした。結果、44試合登板で1勝3セーブ22ホールド、防御率0.61の好成績を残し、1950年の大島信雄(松竹)に並ぶ最年長新人王の候補に挙がるまでになった。

日本シリーズでは27日の第5戦にも4番手で登板し、1.1回を無失点に抑えた。第6戦、第7戦は出番がなかったものの立派な日本一メンバーの一員だ。

「フォークでカウントを取れるのは強み。先発もできると思うし、まだまだ可能性はある」。2019年まで打撃コーチを務めた下山スカウトは、打者目線でそう断言する。さらにこう続けた。

「僕は36で引退したけど、今は現役寿命も延びてるし、最低10年はプロで活躍してほしい。40歳までやってほしいですね」

「おじさんルーキー」が世間的に「おじさん」と呼ばれる年齢まで活躍することを、元祖「おじさんルーキー」は楽しみに待つ。内山に打たれた悔しさは阿部をさらに成長させるだろう。遠回りした遅咲きの花が満開になる日はまだ先だ。

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