前回8回無失点で降板の悔しさ晴らす
オリックスの宮城大弥は、記念すべきウィニングボールをコロナ感染した中嶋聡監督に代わって監督代行を務める水本勝己ヘッドコーチに差し出した。
「最後まで投げさせてもらい、ありがとうございました」。そんな感謝の思いもあったのだろう。ただ、水本監督代行は丁重に断った。
「ありがたかったけど、それは選手のものだから大事にしてほしい」。指揮を執って2戦目で手にした初白星だけで十分だった。
27日に本拠地・京セラドーム大阪で行われた西武戦に6―0で勝利したオリックス。入団3年目の宮城大弥はプロ初の完封勝利を飾った。「めちゃくちゃうれしいです」。自己最多の13勝をマークした昨季もかなわなかった念願のシャットアウトゲームだ。
8勝目を挙げた20日の西武戦は、8回無失点で降板した。最後まで投げ切れなかった悔しさを胸に、この日は九回のマウンドへ向かう。同じ沖縄出身のバンド「BEGIN」が歌う登場曲の「三線の花」が、一回に続いて場内に流れると、スタンドから送られる拍手がさらに大きくなり、「鳥肌が立ちました」。
熱い思いを力に替えて左腕を振り続ける。最後は同郷の先輩・山川をレフトフライに打ち取ってゲームセット。小さく左手でガッツポーズを取り、笑った。
敵将・辻発彦監督もお手上げ
この日は、立ち上がりから安定していた。140キロ台後半の直球や得意のスライダーが制球よく決まる。縦に大きく割れるスローカーブが効果的で、左打者の森友哉や栗山巧らの中軸打者を苦しめた。
「打つ方でも守る方でも野手のみなさんに助けられ、テンポよく投げられた」。一回は宗佑磨が先制2ランで援護した。五回には一塁を守った頓宮裕真がライナーを横っ跳びして好捕、オグレディが放った安打性の打球は右翼・小田裕也がもぎとった。
「各イニングの入りを意識しながら投げられたのがよかった」。118球を投げ、被安打4、無四球の内容で、六回以外は全て先頭打者を打ち取り、相手に攻撃のリズムを作らせなかった。西武の辻発彦監督は「変化をつけて投げてくる投手に気持ちで優位に立たれると、さらにポンポン投げられてしまう。ああなってしまうと、流れ的にまずい」と悔しがった。
2年連続2桁勝利に王手、さぁラストスパート
8月に入って3連勝。9勝目をマークし、2年連続2桁勝利に王手をかけた。順調に見える今季の宮城大弥だが、試行錯誤の連続でここまで来た。開幕2戦目の西武戦は5回4失点で負け投手となり、今季の初白星を手にしたのは4戦目のソフトバンク戦だった。
上げた右脚を一度下ろしてから再び上げる2段モーションをやめ、上げた右脚をそのまま踏み出すフォームへ変えて臨んだのも、現状を打開したかったからだ。
フォーム変更は「吉」と出た。この勝利から5連勝。だが、6月28日の楽天戦から3連敗を喫した。トンネルを抜けるため、フォームを2段モーションに戻した。今度は「1段と2段、両方を使い分けながらやっていきたい」。新しい形の投球スタイルを模索するなかで成し遂げた完封劇だからこそ、喜びもひとしおだったに違いない。
お立ち台には、先制2ランを放った宗佑磨とともに上がった。インタビュアーから祝福の言葉を受けた宮城大弥は、「ほいさあーい」と謎の言葉でスタンドを沸かせ、「今週も頓宮さんに、やれと言われました」と照れくさそうに笑った。
エース山本由伸の背中を追う21歳の左腕投手は「大事な試合が続くので、一つも落とすことなく全力で頑張りたい」。その覚悟はできている。
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