主砲と助っ人が声を揃えた“北條おめでとう”
チームの主砲、そして、加入したばかりの助っ人が自然と声を揃えた。“北條、おめでとう”。レギュラーシーズン後半戦の幕開けとなった7月29日のヤクルト戦。初回にタイムリー、8回にはダメ押しの一発を放った大山悠輔は、甲子園のお立ち台で言った。
「今日は同級生の北條の誕生日なんで何とか1本と思って」
待望の虎1号を左翼スタンドに叩き込んだアデルリン・ロドリゲスも「今日、北條選手の誕生日だったのでお祝いをしたいと思います。おめでとうございます」と丁寧な祝福メッセージでその場を締めた。
このやり取りだけを見ても、チームの中で北條史也という男が決して小さな存在でないことがうかがえる。
“ベンチが打たせますから”無形の力に背中押される仲間たち
28回目の誕生日を迎えた背番号26。現状、毎日スタメンに名を連ねる立場ではなく、むしろベンチを温める時間の方が圧倒的に多い。それでも、この日も7回無死一塁で代打起用されるとバスターエンドランを決めて左前打。ベンチ前でチームメートたちはわが事のように歓喜していた。
過去に糸原健斗が言っていた。「ジョー(北條)があれだけベンチで声を出してくれてる。“ベンチが打たせますから”と言ってくれる。今まで凡退したら顔に出てましたけど、ベンチの声を聞いたらそんなことできない」
グラウンドに出るレギュラーメンバーだけでは長いシーズンを戦うことはできない。「ムードメーカー」や「ベンチウォーマー」は必要不可欠。北條自身も役割を分かっている。「もちろん、最初から試合に出たいですけど、出られないならその時にできることに全力を尽くします。声出しも1つですよね」。そんな無形の力に背中を押される選手が少なくないから、北條の躍動に誰もが声を挙げる。
大逆転Vへ欠かせぬオンリーワン
タイガースには脈々と受け継がれてきた“伝統”もある。古くは「浪速の春団治」こと川藤幸三をはじめ、田中秀太、狩野恵輔と目立った実績はなくてもチームを一体にする空気を醸成できるプレーヤー。その誰もが長くユニホームを着て現役を続けてきた。
北條も今季が節目のプロ10年目。高校時代からのライバルだった藤浪晋太郎と同期入団で注目されたが、定位置奪取できずに今に至る。ただ、居場所はある。先述のヒーローインタビューで大山はバスターエンドランを決めた北條に対して、こう付け加えている。
「そういう練習するのを見ているので。北條らしいなと」
控え選手が練習から一切、手を抜かず気合をみなぎらせる。毎日、試合に出る選手たちに与える影響は小さくないだろう。持ち前の勝負強さを発揮して、7月だけで2度も、甲子園のお立ち台に立った北條。大逆転Vを狙う猛虎に欠かせない“オンリーワン”だ。
《ライタープロフィール》
チャリコ遠藤 1985年4月9日生まれの37歳。本名は遠藤礼。関西大学から2008年にスポーツニッポン新聞社入社。2010年から阪神タイガース担当で2018年から「チャリコ遠藤」のアカウント名でTwitterで積極的に情報を発信中。フォロワーは3万人超。趣味は海釣り。
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