「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

プロ野球「投高打低」の原因は打撃理論の停滞?根鈴雄次氏が指摘

2022 7/2 06:30楊枝秀基
根鈴雄次氏,筆者提供
このエントリーをはてなブックマークに追加

筆者提供

6月までに完全試合含むノーヒットノーラン4度

スマホの画面に「〇〇が6回終了時点でノーヒットノーラン継続中」というポップを頻繁に目にするようになった。20年以上にわたってプロ野球を取材しているが、こんな経験はもちろんない。

それもそうだろう。6月までに完全試合を含むノーヒットノーランがセ・パ両リーグ合わせて4度、達成されている。1シーズンで4度の快挙は1リーグ時代の1940年、1943年以来3度目で、2リーグ制以降は初めての珍事。約80年もの時を超えての出来事だと思えば、どれだけレアかがわかる。

6月終了時点でセ・リーグでは阪神とヤクルトがチーム防御率2点台。パ・リーグでは日本ハム以外の5チームが2点台という投高打底。3割打者に関してはセ・リーグには6人存在するが、パ・リーグは2人しかいないという異常事態だ。

投手の進化に打者がついていけてない?

今季は開幕直後から投高打底傾向が出ていた。それを印象付けたのは4月10日のロッテ・佐々木朗希の完全試合だ。そこから5月11日にはソフトバンク・東浜巨がノーヒットノーラン。続いて6月7日にDeNA・今永昇太が、同18日にはオリックス・山本由伸が立て続けにノーヒットノーランを成し遂げた。

一体この原因は何なのか。日米球界に詳しい関係者はこう語る。

「世界的にも日本の投手は優秀であるという認識が高い。MLBに挑戦する日本人投手たちはレベルが高く、何より制球力が抜群だ。さらに順応性も高く、渡米後に学んだ投球技術を急速に吸収してメジャーの強打者に対応してしまう。また、これらの技術はリアルタイムで世界中にSNSなどで映像配信され、世界のどこにいても学ぶことができる。現時点でNPBで起きていることは、投手の進化の速さに日本の打者がついてこられていないということでしょう」

近年では様々な変化球を投手それぞれが磨きに磨き、ラプソードやトラックマンデータなどを駆使して分析。数値を可視化し、打者の錯覚を招く投球を意図的に開発している。その変化の境目で打者の対応が遅れているのが、現在の状況というわけだ。

旧態依然の打撃練習

過去には打高投低と言われた時代も存在した。投手が技術を学べば打者がそれに対応する。そういう繰り返しを過去の歴史でも繰り返してきた。だが、これだけ練習環境が整った現代、打撃マシンでも打ち込みが可能な時代に打者の対応が後手に回るのはどういうことなのだろうか。

これに関してはMLBエクスポズ傘下3Aなどでプレー経験があり、オリックス・杉本裕太郎外野手のスイング指南役でもある根鈴雄次氏がこう解説する。

「打撃練習というジャンルが日本ではここ20年ほど停滞している印象は拭えないですよね。困ったらロングティー、連続ティー打撃、ランチ特打とか。従来の形の練習をよりハードに行うといったくらいで、新しい画期的な引き出しというものが見た覚えがありません」

根鈴氏の打撃理論は身体の近くまで投球を引き込み、バットをゴルフスイングのように縦に振る独特のメソッド。「もちろん、そればかりが正解だなんて思っていません。一つの引き出しにはなるのかなとは考えていますが」と話すが、現状打破には画期的な理論の導入も不可欠ではないのだろうか。

球界内では「ボールが飛ばなくなった」と主張する選手や、それを否定するプレーヤーも存在する。直接的かつ唯一の原因などおそらく存在しないのだろう。投手の進化、打者の技術習得法の停滞、ボール自体の変化などなど。打者受難の時代から野球がどういった変遷を辿るのか。現代を生きる選手たちのプレーを見守るしかない。

【関連記事】
オリックス杉本裕太郎、不振に悩むラオウを救った根鈴雄次氏の助言
「4割打者」はなぜ出現しない? 歴史から紐解くその奥深い理由
メジャーでノーヒットノーランが続出する理由、今季すでに6度の「異変」