「なんで甲子園でイカ焼きを売らないのか」
阪神タイガース親会社の阪急阪神ホールディングスの株主総会が6月15日に大阪市内で開催。今季は開幕からの歴史的ド低迷で紛糾必至と見られたが、そこまででもなくイチャモンを付けられたぐらいで無事終了した。
例年、阪神の株主総会といえば阪神ファンの株主からチームへの質問が良くも悪くも飛び出すのが風物詩。特に注目だった今年はある株主の「なんで甲子園でイカ焼きを売らないのか」で仰天スタートし、別の株主がヤケクソ気味に「阪神の矢野は何でやめると言うたのか。あんな自分勝手な人はおらん。予祝ってなんや。次の監督が誰になるか、気になる」など誰もが思っている一撃をお見舞いした。
こんな調子では先が思いやられると感じたが、阪神・谷本オーナー代行に「賛否両論あります」「誰一人優勝をあきらめていない」など応答されると、それ以上の突っ込みもなく、“ハイ、終わり”となった。
2018年はロサリオへの“口撃”も
開幕63試合まで最下位、株主総会開催時点で6年ぶりのBクラス(4位)のチーム状態だったのに拍子抜け…。筆者的にはコロナ前の2018年株主総会の方がよっぽど強烈だった。
この年は“世界の鉄人”金本知憲監督の就任3年目、後に最下位で解任されたシーズン。そもそも開始早々から異例で、総会前日に発覚した阪神球団職員の盗撮事件を受け、同ホールディングス・角和夫会長が「被害を受けた方に心からお詫び申し上げたい。ファンの皆様、関係者にもお詫びしたい」と“謝罪”する形でスタートした。
質疑応答では一人目の中年男性から低迷するチームの話題に集中。「2年前、特定のコーチの名前が挙がって批判があった。2年たっても打てない。セ・リーグダントツの打撃最下位。これでは勝てるわけない。この2年何をやっていたのか!高い新外国人を取っても打てない」とやれば、他の株主が「外国人選手を獲るのがずっとダメ。自虐本を出したらどうですか。本を出したらトップセールスできますよ」と当時不振で二軍落ちしていた年俸3億4000万円の助っ人ウイリン・ロサリオを皮肉り“口撃”する一幕も…。
また、別の株主も「コーチが大事と言うことを分からないのか。広島のコーチがヤクルトにいって交流戦トップなんですよ」と“成功例”として当時のヤクルト・石井打撃コーチを暗に持ち上げて批判すれば、老齢の株主からは「(要は)いつ優勝してくれるのか!毎年落胆していることの繰り返し。阪神の経営者から今後の決意を聞きたい」ときつい一発。
たたみ掛けてくる株主からの連続攻撃に百北幸司球団取締役(現阪神球団社長)も「我々も監督、コーチ陣を信頼を持って指導、指揮を任せている。必ず復調すると信じております。ご理解願いたい」と何度も頭を下げるしかなかった。
「阪神の質問はやめて」と“内輪もめ”まで
終わってみれば阪神や甲子園に関する不満を爆発させた株主は実に7人…。どれもケンカを売ってるような鼻息の荒い内容ばかりだったが、さらに仰天したのは野球に興味のない株主から途中「いい加減、阪神の質問はやめてもらいたい!経営に関する質疑をやって!」と“内輪もめ”する声まで出たことだ。
普通この手の「物言う株主」は日頃の思いを、年に一度の総会で壇上に立つ経営者側にぶつけ、どこかで“やっつけたろ”“言うたった”的な感慨に浸って終わるもの。だが、それを同じ株主仲間から否定されるとは…。同ホールディングス関係者も「近年こんな感じの総会はなかった。過去にもないと思います」と驚いたほどだった。
2018年の株主総会取材後、筆者は仕事をサボって総製作費何十億円の娯楽映画を観たが、映画と比べても「阪神の株主総会の方がよっぽど面白い」と思った。それにしても当時、出席していた過激?な株主らは元気にしているのだろうか。今の阪神をどう見てるのか、知りたい気もするが、余計なお世話かもしれない。
《ライタープロフィール》
岩崎正範(いわさき・まさのり)京都生まれ。1992年から2021年6月まで東京スポーツ新聞社に勤務。プロ野球の阪神タイガースを中心に読売ジャイアンツ、オリックスバファローズ、ニューヨークヤンキースなどを取材。現在はフリーライター。
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