「歴史的低迷」から復調してきた阪神
“歴史的ド低迷”に泣かされてきた最下位・阪神タイガースが息を吹き返しつつある。
開幕からコロナ陽性で離脱していたエース・青柳晃洋(28)の奮闘をきっかけにチームは3カード連続勝ち越し&6連勝をマークするなど復調し、矢野燿大監督(53)は「5月はいいスタートが切れた。本当に“ビッグウエーブ”にしていきます」と巻き返しを宣言。3日からのヤクルト3連戦(甲子園)こそ負け越したが、底だけは抜けた格好だ。
振り返ればV候補の筆頭が開幕からまさかの9連敗、1つ勝ってまた6連敗(引き分け1を挟む)と惨状が続き、17試合消化時点での勝率は衝撃の0割6分3厘。早々からNPB史上ワースト記録更新で、当然ながら矢野監督にバッシングが集中し、タダならぬ状態にあったが、筆者的にはエラソーに問題点を指摘するよりも“もし、これで逆転優勝できたら…”などと内心では勝手に面白がっている。
2004年、ヤンキースに19安打で「歴史的勝利」
そんな弱い阪神で今季よく使われる「歴史的XX」。2004年、岡田監督率いる当時の阪神を思い出した。
こちらはおめでたい話で開幕直前の3月29日、敵地・東京ドームで松井、ジーター、A.ロドリゲスらそうそうたるメンバーで来日した名門ニューヨーク・ヤンキースと対戦。阪神は何と19安打の猛攻で11対7と快勝し、日本の球団としては史上初めてヤ軍に黒星を付ける「歴史的勝利」を決めたのだ。
たかがエキシビジョンとバカにしてはいけない。ヤ軍はこの年、日本でデビルレイズ(現レイズ)とMLB開幕戦を行うためにやってきており、前日28日には巨人に完勝。ナインの仕上がりはまさにバッチリという「ガチンコ対決」を阪神が制したのだから、それはそれはマジな快挙、虎の大自慢として当時は大いに盛り上がったのだ。
余談ながら筆者も含めた虎番連中は試合後「米国のメディアに笑われるからそれだけは止めておこう」と再三“談合”し合ったのに、翌日の紙面は全紙とも1面見出しで「阪神世界一!」…。
1回勝っただけで何とも節操のない話だったが、それでもジーターらヤ軍ナインから「日本最強のチームは松井がいた巨人ではなく阪神ではないのか」など絶賛され、岡田監督は「歴史的勝利なんか?そら、光栄な話や」と珍しく満面の笑みを浮かべたほどだった。
現役時代の矢野監督が「歴史的一打」
そしてこの試合、忘れられないであろう“記念の一打”を放ったのが現役時代の矢野監督。何とランニング本塁打を放って勝利に貢献し「やる限りは勝ちたいと思っていた。1日だけでも“世界一”だ!」と格好の喜びコメントを残している。今思えばさすがである。
また、この日の始球式を務めたのは前監督の星野仙一オーナー付きシニアディレクターで、試合前にはヤ軍の名将ジョー・トーリ監督の訪問を受け直接会談。ヤ軍の主力組が寄せ書きした記念のサインボールをプレゼントされるなど、ユニホームを脱いでも存在感を見せつけた御大は「ヤンキースを袋叩きにしたな。あの程度の投手なら打てるだろうよ。日本の野球もこれだけ上がったと向こうもビックリしてるだろう。勝負事は負けるより勝つ方がいい!」とどこまでも上機嫌だった。
名門・ヤ軍への「歴史的勝利」には、まさに誰もが酔いしれた。ちなみに意気軒高と化した阪神ナインはその後の開幕・巨人戦(東京ドーム)に3連勝と好発進。“世界一効果”は十分で、こじつけではあるが、チームは翌年の2005年にリーグ制覇を果たしている。
それが今季の阪神に何の関係が!?と言われればそれまでだが、わざわざ書くことで「歴史的ナントカ」「歴史的ほにゃらら」という奇跡が生まれるかもしれない、ということ。筆者なりの“予祝”…でご勘弁してもらいたい。
《ライタープロフィール》
岩崎正範(いわさき・まさのり)京都生まれ。1992年から2021年6月まで東京スポーツ新聞社に勤務。プロ野球の阪神タイガースを中心に読売ジャイアンツ、オリックスバファローズ、ニューヨークヤンキースなどを取材。現在はフリーライター。
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