「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

ソフトバンク藤本博史、ホークスの歴史を熟知するベテラン新監督

2022 6/17 11:00広尾晃
ソフトバンク・藤本博史監督,ⒸSPAIA
このエントリーをはてなブックマークに追加

ⒸSPAIA

天理高からドラフト4位で南海へ入団

今季から福岡ソフトバンクホークスの監督になった藤本博史は、現役時代から「強いチーム」と「弱いチーム」の現実を嫌と言うほど見てきた野球人だ。

藤本は大阪府出身、奈良県の天理高校時代は強打の内野手として甲子園にも出場した。天理高は甲子園優勝経験もある屈指の強豪校だ。天理高出身のプロ野球選手の通算安打数上位10傑を下表にまとめた。

天理高校出身選手の安打数10傑,ⒸSPAIA


野球殿堂入りした大打者、門田博光が圧倒的な存在感だ。21世紀に入って天理高出身の野手の活躍が目立つようになったが、それまでは南海ホークスの後輩でもあった藤本が門田に次ぐ打者だった。

藤本は1981年ドラフト4位で内野手として南海に入団。同期には甲子園の優勝投手だった金村義明(報徳学園―近鉄)、伊東勤(所沢高-西武)、槙原寛己(大府高-巨人)などがいる。

巧打者として活躍した現役時代

藤本が入団した1982年の南海は、ドン・ブレイザーが監督を務めていた。ただ、1977年のオフに野村克也ら主力が流出したチームは低迷期真っ只中。翌年には穴吹義雄が監督になるなど以後も監督交代が続き、野村監督の最終年である1977年に2位になったのを最後に、南海はずっとBクラスが続いた。

チームは不動の中軸打者である門田博光がけん引していたが、藤本は守備、打撃ともに一軍レベルに達していなかったため、3年間をファームで過ごす。4年目の1985年に初めて一軍に昇格するが、山村善則の控え三塁手だった。

1988年に正三塁手の座を掴み取り、15歳年長の大先輩、門田博光の前後を打つ中軸打者となる。南海はこの年10月にダイエーに身売りが決まり、翌年は福岡ダイエーホークスとなるが、福岡でも藤本は正三塁手として活躍した。この年から藤本はのちにトレードマークとなる口ひげを生やすようになる。

柔道をやっていただけに立派な体格で、チームも中軸打者として期待をかけていた。だが、藤本は「強打者」というより「巧打者」のタイプで、球に逆らわない流し打ちや、進塁打を打つなど状況に応じた打撃が得意だった。大きな体ながら、状況に応じてバントもすることができた。

選球眼も優秀で、1992年にはチームトップの出塁率.379を記録している。中軸を打つことも多かったが、6、7番を打つ方が持ち味を発揮できる打者だったと言えよう。守備は主として三塁、二塁を守ったが俊敏とは言えず、守備率は低かった。

1998年のシーズン序盤にオリックスに移籍したが、この年限りで引退。35歳だった。

引退後もホークス一筋、遂に監督就任

引退後は、福岡で飲食店を経営するとともに解説者として活躍。ホークスは1999年に王貞治監督のもと、初優勝を果たすとパ・リーグ屈指の強豪へと変貌していく。藤本はその流れを放送席から追い続けた。

藤本が13年ぶりにホークスのユニフォームに袖を通したのは2011年のこと。十数年にわたって経営していた飲食店を閉めてコーチに復帰した。並々ならぬ決意が見て取れる。

この年、ソフトバンクは育成選手を中心に三軍制を導入、主力選手を自前で育成する方針を打ち出したが、藤本は以後、主として二軍、三軍の打撃コーチ、監督として若手の育成を担当する。

2011年以降、生え抜きの主力打者として台頭した選手には柳田悠岐、中村晃、福田周平、栗原陵矢らがいるが、彼らを抜擢したのが藤本だ。また、育成枠から主力選手に成長した甲斐拓也、牧原大成などにチャンスを与え続けたのも藤本だった。

2015年に工藤公康がホークスの監督になる。工藤は2014年に筑波大学大学院修士課程に入学し、川村卓准教授に師事。コーチング理論を学び、広範な知識と技術を身に着けてホークスの指揮官となった。藤本は工藤の考え方をよく理解し、打者に的確なアドバイスを送ってきた。

2021年限りで工藤が監督退任を発表した時、ホークスには2000本安打を打ったレジェンドの小久保裕紀、一軍監督経験のある平石洋介などのコーチ陣がいた。しかし球団は、当時二軍監督を務め、どちらかと言えば地味な印象だった藤本を一軍監督に抜擢。藤本は三軍創設の年にホークスに復帰し、新しいチーム作りを現場で支えてきた。高卒入団から40年目、ホークスのことを誰よりも知り、前監督の野球理論を継承する指導者に白羽の矢が立ったのだ。

今年の宮崎での春季キャンプでは、メインスタジアム前に、ひげの藤本新監督を模したバルーンモニュメントが設置され、期待感を高めた。

今季のホークスは絶対的な中軸打者だった柳田悠岐がやや不振で、栗原陵矢が戦線離脱するなど打線の調子が今一つ上がっていない。しかし若手選手を熟知する藤本博史監督は三森大貴、柳町達など若手選手を抜擢し、戦力のリニューアルを図っている。

ベテランの手腕を持つ新監督、藤本博史に期待したい。

【関連記事】
世代別安打数ランキング 巨人・坂本が独走も首位打者6回、最多安打7回と多士済々の88世代
ドラフト下位指名から逆襲した選手たち、ソフトバンク育成枠は原石の宝庫
2022年にFA権取得見込みのプロ野球選手、宣言なら争奪戦必至の目玉は?