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ソフトバンク・又吉克樹、実力と「人間力」で切り拓いた一流セットアッパーへの道

2022 5/23 11:00広尾晃
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サイドスローに転向し頭角現す

今季、中日からソフトバンクにFA移籍した又吉克樹が好調だ。5月22日時点で20試合に登板し1勝1敗1セーブ12ホールド、20.1回を投げて13被安打17奪三振4与四球、自責点2。セットアッパーとして「勝利の方程式」を担っている。

又吉のキャリアには「初めて」がつきまとう。沖縄県浦添市出身で、県立西原高校時代は全くの無名だった。同じ沖縄の同世代投手には先日ノーヒットノーランを記録した沖縄尚学高の東浜巨(亜細亜大-ソフトバンク)がいるが、「ライバルとか思ったことはなかった」という。

環太平洋大に入学して身長が急に伸びるとともに、サイドスローに転向して頭角を現す。しかしこの時点ではドラフトにかからず、トライアウトを受けて独立リーグ四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズに入団した。

独立リーグ出身として最高の指名順位でプロ入り

「又吉は入ってきた時から、他の選手とは意識が違った。常に成長しようとしていたし、目の色が変わっていた」と、当時香川の監督だった西田真二氏は話す。

エースとして24試合に登板し、13勝で最多勝、防御率1.64(2位)で前期優勝に貢献、最優秀投手にも選ばれる。2013年10月24日のNPBドラフト会議では中日から2位で指名されるのだが、これは独立リーグ出身選手の指名順位としては、現在に至っても最高順位だ。

ドラフト4位以上で指名された独立リーガー,ⒸSPAIA


又吉自身は香川に入団した時点ではプロ志望ではなく教員になるつもりだったが、自分の投球が独立リーグで通用したこと、そしてNPBのスカウトが頻繁に訪れて声をかけたこともあり、プロ志望へと気持ちが傾いていったという。

独立リーグからNPBに入団した選手は、契約金と初年度年俸から応分の分配金を独立リーグ球団へ支払う契約になっているという。又吉の上位指名は経済規模の小さな独立リーグにとっては大きな収入となった。

リーグを代表するセットアッパーとしてオールスターに選出

2014年、又吉はセットアッパーとして67試合に登板、9勝1敗2セーブ24ホールド、防御率2.21と大活躍した。又吉の活躍によって四国のレベルの高さを認識したNPB球団は、この年四国から本指名で3人、育成で1人を指名している。

2015年春の沖縄。北谷町の中日春季キャンプにて筆者は全体練習が終わった午後に、キャンプ場に隣接するソフトボール場で、又吉克樹、浅尾拓也、吉見一起の3投手が、三塁ベースの後方から一塁でミットを構える近藤真市投手コーチにボールを投げ込む練習を見た。

近藤コーチは3人の投手の球筋や回転を確認していたのだろうが、又吉の投げる球は3人の中でひときわ伸びて鋭い音を立ててコーチのミットに収まった。高校時代には全く無名で大学でも注目される存在ではなかった又吉は、肩肘の消耗が少なく、まだ伸び盛りだったのだ。

2017年、入団から4年連続で50試合以上に登板した又吉はセ・リーグを代表するセットアッパーとしてオールスターに選ばれた。独立リーグ出身投手としては初めてのことだった。

しかし2018年には9ホールドを挙げたものの防御率6.53と成績が急落。以後3年間、登板機会が減り低迷する。球速が落ち、制球力も低下。プロ入り後の登板過多によって、パフォーマンスが低下したのだ。また、2020年には復帰を焦るあまり左腹斜筋を痛めてしまう。

プロ入り、FA移籍の裏にあった心配り

デビュー直後から数年にわたって大活躍をしたものの、登板過多による不振でそのまま消えていった救援投手は数多い。だが又吉は2020年後半に復帰すると、2021年は66試合3勝2敗8セーブ33ホールド、防御率1.28と、キャリアハイの成績を残し見事に復活した。

オフにはFA権を行使してソフトバンクに移籍、独立リーグ出身者としては「初めて」のFA移籍となった。パ・リーグに舞台が変わっても圧倒的な成績を残している。

「又吉克樹選手は、何といっても人柄が素晴らしいですね。中日に移籍した年のうちの開幕戦に、彼は大きな花輪を送ってくれたんです。自分だってルーキーで大変なはずなのに、そういう心配りができるんです。感動しました」

香川オリーブガイナーズの球団関係者は語った。独立リーグ時代から、選手や指導者、スタッフへの心配りができる選手だったのだ。

ドラフト指名が決まった後、四国アイランドリーグplusを運営する株式会社IBLJの鍵山誠代表(当時)は又吉と食事をした。鍵山氏はこのとき、又吉に「ぜひ、FA権を取得するまで頑張ってほしい」と励ましたという。

「今年になって又吉選手から“ソフトバンク戦に招待するから来てほしい”と連絡がきたんです。彼は“FA移籍しろよ”と言う僕の言葉を覚えていてくれたんですね。こんなにうれしいことはないですね」鍵山氏は語った。

又吉克樹は実力に加えて、心配りが自然にできる「人間力」で、一流選手になったと言ってよいだろう。

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