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使うだけで球が速くなる!?夢のグラブ「ごりら印の野球道具」の挑戦

2022 5/4 11:00内田勝治
グラブに刺繍されたごりら印,筆者提供
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筆者提供

球を速くしたい投手こそ手にしてほしいグラブ

使うだけで球が速くなる。投手が追い求める夢を叶えてくれるグラブがある。社会人野球投手を中心にじわじわとユーザーが増えている「ごりら印の野球道具」。2020年に発足したばかりの新興メーカーで、かわいいゴリラとバナナのラベルが、一目見たら忘れないインパクトを与えている。

代表を務める崔現大(さい・げんだい)さん(34)は、ネーミングとラベルの意図をこう説明する。「ゴリラのことを嫌いな人っていないじゃないですか。子供も喜ぶし、ひらがな3文字も日本人の心に残りやすい。最初はこんなにゴリラゴリラしているロゴじゃなかったんですけど、もう振り切ってやろうと(笑い)」

柔道整復師の資格を持つ元独立リーガーが立ち上げ

崔さんは左投げ左打ちの一塁手として、日大鶴ケ丘高から中央学院大、そして独立リーグの石川ミリオンスターズで活躍。引退後に日本柔道整復専門学校に通い、柔道整復師の資格を取得し、2016年、東京・赤羽に「ごりら整骨院」を開業した。

元独立リーガーの院長の評判を聞きつけ、患者の7、8割は野球選手。「ケガ予防のためにも、体の使い方を覚えてもらいたい」と思い立ち、グリップが2つあるスイング矯正用のバットを試作したことが、野球用具製作の始まりだった。

「野球道具って作れるんだな、と。それじゃあグラブもオリジナルで作れるかな」。筋肉の動きを細かく知る自身の知識を生かし、パフォーマンスを上げるグラブで大手メーカーとの差別化を図る。知り合った職人の力も借りながら「ごりら印」のグラブが誕生した。

捕球面裏にウレタンを入れ、手の平の「アーチ」を保つ

こだわるのは、右投手ならグラブをはめる左手に力が入っていない「ニュートラル」な状態を保つこと。足の裏に土踏まずがあるように、実は手のひらにもアーチが存在している。

人間は指を伸ばした時点で体に力が入り、ストレスがかかるという。このアーチがしっかり作られると、腕から胸郭、背部、腰部まで繋がる筋肉(アームライン)の連動性が生み出され、爆発力が引き出される。リラックスして軽く投げた時ほどいいボールがいく。あの不思議な感覚を再現してくれるグラブといっていいだろう。

「筋肉は筋膜で全て繋がっているという考え方。力めば力むほど体って連動しなくなるんですよね」。無駄な力みをなくすため、「ごりら印」のグラブは、型が崩れないように、捕球面裏に名刺大、厚さ1.5ミリのウレタンを入れる。このウレタンが形状記憶の役割を果たし、アーチ形状が自然と保たれるという訳だ。

ごりら印のグラブ,筆者提供

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平均で3、4キロ、最高で11キロも球速がアップした投手も

4月に栃木の甲子園常連校で行った測定会では、最速131キロの投手が138キロをマークするなど、投手全体の平均で3、4キロ球速が上がり、チームで即納品が決まったという。過去最高は社会人チーム所属の右オーバーハンド20歳で、なんと11キロもアップ。自身のグラブを使用した時よりも球速が増す投手が大半を占める。

崔さんは当初、内野用や外野用のグラブも製作していたが、2021年末から投手に特化したモデルのみを販売(オーダーのみ野手用も制作可)。その中でも、オーバースロー型(小指、薬指にバランスを設定し、グラブをはめる方の腕を回外へ誘導するモデル)、サイドスロー、アンダースロー型(親指にバランスを設定し、グラブをはめる方の腕を回内へ誘導するモデル)、その中間のオーソドックス型と、タイプ別の3型に限定した。

自分にあったモデルを使うことで体の使い方が変わり、球速アップのみならず、コントロールが安定する投手も増えたという。

「野手ってグラブのこだわりが凄く強いじゃないですか。当てて捕る、という感覚は、左利きの僕には分からない。でも、投手ってそこまでクラブにこだわりがないというか。ウェブが格好いいからとかいう理由で決める人もいる。だったらそこで徹底的にこだわった、投げるのに特化したグラブだけを作ってみようと思いました」

昨年の都市対抗野球で優勝した東京ガスの投手数名が使用していたこともあり、アマチュア球界で「あのゴリラのグラブは何だ」と話題を呼んだ。「東京ガスの投手も、体の使い方が変わるから投げやすいと言ってくれる。勝手に腕が振れるという感覚があるみたいですね」と自慢の製品に胸を張る。

ごりら印の野球道具を販売している崔現大さん,筆者提供

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「選手のポテンシャルを爆発的に引き出す一つのきっかけに」

今後はアマチュアのみならず、プロの一流投手の中でも広がる可能性を秘めている。それでも崔さんの「選手のポテンシャルを爆発的に引き出す一つのきっかけになるようなブランドでありたい」という考えは一貫して変わることはない。

「中学や高校、大学で2番手、3番手、ベンチに入れないような選手がこのグラブを使って、エースになって甲子園に行った、プロに行ったとなって、気づいたらよく見るメーカーになったね、という風になったらうれしいですね」

その理念に賛同する人も増え、設立からわずか2年で北は山形県から、南は沖縄県までのスポーツショップ約50店舗で取り扱われるようになった。野球シーズンもこれからが本番。もし短期間で何かを変えたいと欲している投手がいたら、ぜひ「ごりら印」を相棒にしてみてはどうだろうか。あなたの奥深くに眠るパワーが一気に目覚めるかもしれない。

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