巻き返しのキーマン
5月1日試合終了時点で、10勝20敗とリーグ最下位に沈んでいる阪神。借金返済まで厳しい道のりであることにかわりはないが、同日の試合で巨人に8-1で勝利するなど6連勝と息を吹き返してきた。
開幕には出遅れたものの、1軍合流後3試合に登板して3勝を挙げた青柳晃洋の存在も大きいが、双璧とも言える安定感抜群の投球を見せているのが西勇輝だ。4月27日に甲子園で行われた中日戦では、初回で失点を許すもその後持ち直し、6回1失点10奪三振の好投で勝利を手繰り寄せた。
現在5試合に登板して2勝(1敗)で防御率はリーグ2位の1.91。昨季はわずか6勝(9敗)に終わった右腕の復調は、阪神が巻き返しをはかっていく上で決して欠かせない存在だ。
強みの制球力を発揮
西の強みはコーナーを丁寧に突く緻密な制球力。今季は初登板となった3月29日の広島戦でこそ4四球(6回2/3)を与えたものの、2度目の登板となった4月5日のDeNA戦では、らしさを見せて無四球の完封勝利。以降の試合でも投球回にばらつきはあるものの、1試合につき1四球と安定した制球力を維持している。
通算奪三振率は6.72と元々三振を多く奪うタイプではないが、4月27日の中日戦では今季最多の10奪三振をマーク。このまま制球のよさを維持しながら三振も増やしていければ、2020年にマークしたK/BB(奪三振と与四球の比率で、投手の制球力を示す指標)4.11以上(一般的に3.5以上であれば優秀とされる)の数字をマークする可能性もある。
2020年は11勝5敗、防御率2.26とリーグ屈指の成績を残していた。今季開幕から多くの借金を抱えてしまった阪神において、同年のような数字は当然期待され、求められるところだろう。
左打者を抑えられるかがポイント
西の好調のバロメーターの一つが、「いかに左打者を抑えられるか」だ。
わずか6勝(9敗)に終わり防御率3.76と不振だった2021年は、左右打者別の被打率が対右.246、対左.275。一方、前述したように好成績を挙げた2020年は対右.227、対左.198と左打者を抑えている。今季は2020年ほどではないが、現段階で対右.260、対左.226と2021年よりも左打者を抑えることができている。
球種別の被打率を見ると、今季は西の生命線とも言えるスライダーの被打率が.278(2021年は.272、2020年は.198)と過去2年との比較で劣るが、同球種で2割前後の数字を維持できれば、対左においても優位に勝負できるだろう。左打者の膝元(内角低め)に食い込む右投手のスライダーは空振りを奪いやすいからだ。
今季は直球の威力抜群、投球割合も昨季から倍増
左右の揺さぶりと緩急で打たせて取る投球が持ち味の西だが、今季はその投球術が発揮されているシーンが昨季よりも多く見られる。今季の球種別投球割合を見てみると、最も多いのは約29%を占めるスライダーで、次が約27%を占めるシュート。チェンジアップも約22%と比率が高く、直球は約14%と他の投手と比べると随分と少ない。
ただ、年度別で直球の割合を見ると、2020年は約6%、2021年は約7%だった。今季は直球の割合を大幅に増やしていることがうかがえる。直球が走っていれば他の変化球も生きるとよく言われるが、今季は直球(被打率.188、2021年は.289、2020年は.286)が走っていることも好調の要因と言えそうだ。
いかにして左打者を打ち取るか。どれくらい直球が走っているか。そんな視点で見ると、西のその日の投球の良し悪しがわかりやすいかもしれない。
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