サヨナラ打呼び込む価値ある四球
「生きる道」が、明確に見えたような気がした。4月13日の中日―阪神戦(バンテリンドーム)。両軍無得点のまま、中日は延長10回に1死二塁のサヨナラ機を迎えた。立浪和義監督はここで代打に根尾昂を送る。この時点で、今季6打席ノーヒット。それでも、背番号7に対する期待はスタンドが醸し出す空気感で伝わってきた。
阪神・加治屋蓮の攻めは内角一辺倒。初球はワンバウンドでフォークがすっぽ抜け、2球目は126キロのカーブを悠然と見送った。平行カウントから2球続いたフォークは、引っかけさせるのが狙い。いずれも明らかなボール球とはいえ、見送る21歳には昨年までとは違う落ち着きがあった。
3ボールからのカットボールは高め勝負。しっかりと見極めた四球で一、二塁とチャンスを拡大し、続く大島洋平のサヨナラ打でチームの連勝は「3」に伸びた。
甲子園のヒーローが苦しんだプロ3年間
まだ快音がない2022年シーズンも、打席での「内容」は上向いている。初先発した3月29日のDeNA戦で4打席無安打。その後、同30日(DeNA戦)、4月7日(ヤクルト戦)、そして劇的ラストを呼び込んだ打席と3打席連続で四球を選んでいる。
とびとびの起用、1打席で結果が求められるシチュエーションにもかかわらず、出塁し、何らかの形でチームに貢献。かつての甲子園のヒーローは、等身大の戦力として着実に成長している。
思えば、根尾が過ごしたプロ3年間は、高校時代の「幻想」との戦いだった。あの大阪桐蔭で1年夏からベンチに入り、主力選手として2年春、3年春夏と3度の全国制覇を経験。投手として最速150キロを投げ、高校通算本塁打は32本と投打で非凡すぎた。
打者一本に絞ったプロ生活。当然、クリーンアップを担う中心打者が、本人の目標、周囲の願望になる。スラッガーのようにバットを長く持ち、鋭い打球を目指した結果が打率.165、1本塁打、16打点…。大学へ進んでいたら、最終学年となる今年が、ターニングポイントとなるのは間違いない。
元木大介や今宮健太が手本
潜在能力に疑いの余地はない。投打のセンスに加え、50メートル走6秒0の俊足、遠投115メートルを誇る肩、内外野どこでもこなせるユーティリティ性、そして全国球児の頂点に立った星の強さ。いっそのこと、新しいタイプの「2番打者像」を極めるのはどうか。
バント、エンドラン、カットなどの小技を磨き、1番が出塁すれば、揺さぶりをかけて相手守備を疲弊させ、走者がいない時はチャンスメークに徹する。プロの域に達してきた選球眼も武器に、打率や本塁打の数字には表れない活躍を根尾ならできるはずだ。
高校時代の「スラッガー像」を捨て、成功した例は数多い。代表格は、巨人の元木大介1軍ヘッド兼オフェンスチーフコーチだ。上宮高の主砲として、高校通算24本塁打を放ち、甲子園も沸かせた。プロでは一発を捨て、バットではつなぎ役、守備ではレギュラーの穴を埋めるスーパーサブとして持ち味を発揮。長嶋茂雄監督(当時)から「くせ者」と命名され、相手チームにとって、最も嫌な存在になった。
高校通算62本塁打の今宮健太(ソフトバンク)も、明豊高時代に出場した甲子園で154キロを計時した右腕と長打力に見切りをつけ、小技と守備力で遊撃のポジションを奪取。常勝軍団の「顔」になった。
今季の中日は、3年目の岡林勇希が「2番・右翼」に固定されている。根尾より早くプロのボールに順応し、足も速い岡林がリードオフマンとなり、根尾が2番の仕事をこなし、確実性の高い大島が続く並びは、広いバンテリンドームに最適の打線といっていい。
立浪監督が目指す野球を実践する1ピースとして、根尾の進化は不可欠。「Neo Neo」がグラウンドを疾走する姿が待ち遠しい。
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