アマチュア時代に目立った実績なし
弱冠20歳の長岡秀樹(ヤクルト)が一気にブレイクしようとしている。8試合を終えた時点で打率.355(31打数11安打)は堂々のチームトップ。1年前には想像もつかなかった活躍ぶりだ。
アマチュア時代、長岡は決して目立った存在ではなかった。八千代松陰高時代に甲子園への出場経験はなく、U-18日本代表に選出されていたわけでもない。ドラフトの指名順位も5位であり、同期の1位・奥川恭伸と比べると地味な存在だった。なんなら甲子園に3度出場し、U-18日本代表メンバーだった武岡龍世(6位)よりも一般的な知名度は低かった。
プロに入ってからも同様だ。昨季までに一軍での出場はわずか11試合。プロ初本塁打も放っておらず、打率は.048(21打数1安打)と1割にも届いていなかった。
一方の二軍では、昨シーズン打率.261(283打数74安打)とイースタン・リーグ4位の好成績。ただ、首位打者の太田賢吾をはじめ、上位3人はいずれもヤクルトの選手であり、長岡が個人で取り上げられることはなかった。話題になっても首位打者の太田のみ、もしくは上位4人がヤクルト勢、という括りの中に長岡が含まれていただけだ。
それでもシーズン終了後に行われていた昨秋のフェニックスリーグでは、3試合連続本塁打を放ち存在感を発揮。だが、一軍が優勝争いの真っ只中ということもあり、大きな扱いはほとんどなかった。
このように、二軍やフェニックスリーグでの成績を見るに”期待の若手”ではあるものの、ヤクルトファン以外にあまり知られていないのは無理もないことだった。
初めての一軍キャンプも滑り込みでの参加
今春のキャンプでも当初は二軍スタートの予定だった。しかし1月下旬に村上宗隆が新型コロナウイルスに罹患したことで、急遽一軍スタートとなった。
初めて参加する浦添の一軍キャンプでは泥にまみれた。そして、グラウンドでの練習が終わり、他の選手たちがグラウンド整備のためにトンボがけをしている傍らで、森岡良介コーチと話し込む姿があった。
遊撃の守備位置付近で森岡コーチが動作を見せながら、身振り手振りを交えながら、周囲のトンボがけが終わってもふたりの”話し込み”は終わらない。ひと段落して、ベンチに引き上げていく際も歩みは遅い。スタンドから見たその光景はどんな練習よりも印象に残った。
オープン戦では17試合(遊撃15試合)に出場した。打率.239(46打数11安打)と際立つ数字ではなかったが、西浦直亨(打率.133)と吉田大成(打率.077)を上回った。守備の安定度では西浦に軍配が上がるが、高津臣吾監督はディフェンディング・チャンピオンとして迎えた開幕戦で、「6番・遊撃手」に長岡を抜擢したのである。
この試合で失点につながる守備でのミス(記録はヒット)はあったものの、それで崩れることがなく打撃では4安打。最後までグラウンドに立ち続け、劇的な逆転勝利の立役者のひとりとなった。
ここまで四球0、課題は選球眼
開幕戦で左打ちの長岡が起用されたのも、阪神の開幕投手だった右腕の藤浪晋太郎対策というわけではなかった。相手の先発投手が左腕であってもスタメン遊撃手は長岡が続いている。まだ対戦数は少ないが、左腕に対しても打率.400(5打数2安打)と対右腕の打率.346(26打数9安打)を上回っており起用に応えてきた。
さらに4月2日のDeNA戦では、青木宣親がスタメンを外れたことで空席となった「2番」でも起用された。その試合では3安打猛打賞。さらには延長10回、村上宗隆のサヨナラ打で生還したのも、先頭打者として出塁していた長岡だった。高津監督の抜擢に応え続けている。
ここまでの長岡が結果を出していることに疑いの余地はない。しかしこのままの成績で年間を過ごせるわけではないだろう。カード2回り目に入れば、相手球団も今まで以上の対策を取ってくることは容易に想像できる。年間を通じて一軍で戦う体力があるのかも未知数だ。
プロの壁はこれから来る。まず打撃面で気になるのが選球眼だ。ここまでの8試合で32打席に立ち四死球は1個もない。昨シーズンも二軍で302打席に立ち、四球は12個しかなく、BB%(全打席に対する四球の割合)は4.0%とリーグワースト2位だった。守備でも開幕戦を含め自身のミスから失点につながるケースが複数あった。
攻守ともに乗り越えなくてはいけない壁がある。期待の若手から正遊撃手になるためにも長岡はその壁を突破しなければならない。一軍のベンチには守備で安定感のある西浦が控えており、二軍には元山飛優や吉田大成、そして同期の武岡も一軍昇格を目指している。
まだまだ争いは終わらない。それでも今は、ここ数年続いていたヤクルトの正遊撃手争いの先頭に長岡が立っている。
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