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ヤクルト高津臣吾監督、日本一&殿堂入り2つの偉業達成までの紆余曲折の道程

2022 3/23 11:00広尾晃
ヤクルトの高津臣吾監督,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

今年の野球殿堂表彰プレーヤー部門で殿堂入り

昨年のNPBの日本一監督は、東京ヤクルトスワローズの高津臣吾監督だった。高津監督は今年の野球殿堂表彰プレーヤー部門で、山本昌と共に得票率86.1%で野球殿堂入りも果たしている。

殿堂入りした野球人の中には、現役時代の成績が名球会の水準(打者2000安打、投手200勝、250セーブ)未満だが、監督としての実績との「合わせ技」で殿堂入りしたと考えられる人もいる。原辰徳(打者として1675安打、監督として1152勝、リーグ優勝9回、日本一3回)、星野仙一(投手として146勝、監督として1181勝、リーグ優勝4回、日本一1回)などがこれに当たるだろう。

高津も昨年、日本一監督になったが、今回の場合は純粋に救援投手としての実績が評価されてのものだと思われる。

NPBの通算セーブ数5傑の投手を下表にまとめた。NPBに加えて、他のプロリーグでの成績も紹介している。

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高津臣吾は、岩瀬仁紀に次ぐNPB史上2位の286セーブを記録。史上3位252セーブの佐々木主浩が殿堂入りしていることからも、高津は現役時代の実績が評価されての殿堂入りと考えられる。ちなみに、セーブ数1位の岩瀬仁紀は、まだ殿堂入り資格がないが、年限が来れば当然、殿堂入りするだろう。

殿堂入りした人物としては異色の経歴

先ほどの表からわかるのは、高津が実にいろいろな国のプロリーグで投げていることだ。1990年亜細亜大からドラフト3位でヤクルトに入団し、2003年まで救援投手として活躍。最優秀救援投手賞(最多セーブ)を史上3位タイの4回受賞(1位は江夏豊の6回)した。

2004年に海外FA権を行使してシカゴ・ホワイトソックスに移籍。ニューヨーク・メッツを経て2006年にヤクルトに復帰するが、2007年に戦力外となり、2008年はシカゴ・カブスのマイナーを経て韓国プロ野球(KBO)のウリ・ヒーローズに。1勝8セーブ、防御率0.86の好成績を上げるも1年で契約を解除され、今度はサンフランシスコ・ジャイアンツのマイナーへ移籍した。そして2010年は台湾プロ野球(CPBL)の興農ブルズに。ここでも26セーブ、防御率1.88の抜群の成績だったが、またもや戦力外となった。

高津はこの年42歳だったが、なお現役続行を希望し、独立リーグBCリーグの新潟アルビレックスに入団。2011年は16セーブで最多セーブに輝き、翌年はプレイングマネージャーになり優勝監督に。2012年限りで引退した。44歳だった。

マイナーリーグや独立リーグも含めて、現役生活は22年、所属したチームは8球団に及ぶ。

日本の野球殿堂入りした選手で、KBO、CPBL、そして日本の独立リーグでプレーした選手は高津しかいない。野球殿堂入り選手と言えば、王道を歩き続けたエリート選手と相場が決まっているが、高津は極めて異色だと言えよう。

先鋭的な采配で最下位チームを日本一へ

高津臣吾は2017年にヤクルトの2軍監督に就任。3位、2位、5位を記録したのちに2020年に1軍監督に昇格。1年目は最下位だったが、2年目の2021年に6年ぶりにセ・リーグ優勝。そして日本シリーズではオリックスと野球史に残る死闘を演じて日本一に輝いた。

指導者としての高津は、新味のある選手起用をいくつも打ち出している。先発投手では、期待の若手奥川恭伸を「中10日」という長い登板間隔で起用。しかも投球数は1試合を除いて100球以下という「安全運転」で、9勝4敗という好成績につなげた。

また現役最多勝のベテラン左腕、石川雅規は中6日で起用したが、100球以下で降板させて4勝5敗。他の投手も十分に投球間隔をあけて起用。完投数はリーグ最少タイの「3」。規定投球回数に到達した投手はいなかった。

その一方で、2年目のセットアッパーの清水昇は両リーグ最多の72試合登板、2年連続の「最優秀中継ぎ投手」に輝く。またクローザーのマクガフも66試合、今野龍太も64試合に登板。ヤクルトの60試合以上登板3人も両リーグ最多だ。

先発投手は限られたイニング数で降板させる一方で、力のある救援投手はフル回転させる。MLBの強豪チームでよくみられる割り切った投手起用を見せた。

また昨季、巨人から移籍した田口麗斗が、先発で打ち込まれる試合が続くと救援に転向させ、 10月からはワンポイントリリーフで起用。16試合で4ホールドを挙げる活躍をみせた。田口はポストシーズンでも活躍。選手個々の特性を見極めて起用していたのだ。

1軍監督になってわずか2年とは思えない、巧みな投手起用の背景には、いろいろなチームで契約解除、戦力外宣告を受けてきた「苦労人」高津臣吾ならではの「人を見極める目」が活きているのではないだろうか。

いやが上にも期待が高まる2022年シーズン、3年目の高津監督はどんな采配を見せるのか楽しみだ。

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