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ヤクルト・荒木貴裕の地味な存在感 チームに欠かせないマルチプレーヤー

2022 3/10 06:00勝田聡
ヤクルトの荒木貴裕,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

練習試合で2022年の対外試合チーム初アーチ

2022年のヤクルトは荒木貴裕からはじまった。今年の対外試合でチーム第1号本塁打を放ったのは、村上宗隆でも山田哲人でもなくプロ入り13年目のベテランだった。

今年7月に35歳を迎える荒木は2月20日の練習試合(ロッテ戦)に「3番・左翼」でスタメン出場。1打席目こそ凡退するも第2打席で安打を放つと、第3打席で一発を見舞ってみせた。

赤羽由紘や長岡秀樹に武岡龍世といった若手。そしてルーキーの丸山和郁といった、もっともっとアピールしていかねばならない立場の選手たちがノーヒットに終わる中、調整が許されるであろう立場の荒木が若手たちに背中で見せた。

荒木はこれまで規定打席に到達したことは一度もない。少ない打席の中でも打率3割を超えたことはなく、シーズン50安打以上を記録したこともない。またシーズン最多本塁打も2017年の6本にとどまっており、盗塁も2015年の5個が最多だ。

守備のスペシャリストかというとそういうわけでもない。それでもチームに欠かせない男として歴代の監督に仕えてきた。すでにFA権を取得していることが「欠かせない男」である証明になる。

荒木が指名された2009年のドラフトでヤクルトに入団した同期は、ドラフト1位の中澤雅人(現二軍マネージャー)をはじめ、すでに全員が現役を引退した。荒木は長距離砲でも安打製造機でも守備のスペシャリストでもないが、求められた役割をコツコツとこなし、最後までプロの世界に生き残っている。

昨季は一軍フル帯同、マルチな役割をこなす

昨シーズンの荒木は開幕からシーズン終了まで、オリンピック中断期間をのぞいて一度も二軍に降格しなかった。チームで一度も二軍に降格しなかったのは塩見泰隆、村上宗隆、古賀優大と荒木の4人しかいない。それぞれの役割を見ると塩見と村上はレギュラーであり、古賀は二番手捕手だ。一年を通して荒木だけが内外野の控えとして一軍にフル帯同したのである。

代打の切り札・川端慎吾は新型コロナウイルスの濃厚接触者で一時離脱し、優勝決定後はポストシーズンへの調整を優先し登録を抹消された。同じく代打で存在感を示した宮本丈も故障で出遅れたため、一軍初登録は6月1日だった。

そのなかで荒木はキャリアハイとなる100試合に出場した。だが、そのうちスタメンは9試合だけであり、代打(18試合)、代走(21試合)、守備固め(52試合)と途中出場がメインだった。ヤクルトで代打、代走、守備固めそれぞれで10試合以上に起用されたのは、荒木しかいない。チーム一のマルチな存在だった。

また、守ったのは一塁、二塁、左翼、右翼と内外野合わせて4つ。内野と外野でそれぞれ2つ以上の守備についたのは荒木と宮本のふたりだけ。試合前のノックでふたりが左翼や右翼から二塁や一塁へ移動する姿は恒例行事だ。

荒木は怪我や大きなスランプなく一年を過ごし、複数の役割をこなした唯一無二の存在だったのである。華々しい活躍はなかったかもしれない。それでも優勝に大きく貢献したひとりだったのは疑いようのない事実である。

昨季、打点挙げた試合は全て勝利

控えの選手でも目立つ選手は存在する。川端のような代打の切り札はもちろん、代走で起用されることの多い並木秀尊もそうだろう。川端は言わずもがなだが、まだ一軍の経験はほとんどない並木も代走で出てくれば「走りそう」といった雰囲気が漂ってくる。

一方で荒木は地味だ。まさに黒子のよう。メインで起用された一塁の守備でも派手なプレーをすることは少なく、どちらかというと堅実である。

打撃面も昨シーズンは2012年以来9年ぶりに0本塁打に終わり、打率も2割ちょうどと振るわなかった。打点を挙げた4試合(5打点)はすべてチームが白星となにか”もっている”けれども、決勝打は一本もなかった。ポストシーズンも6試合に出場したが打席には1度も立っていない。

そんな荒木がスポットライトを浴びたのが日本シリーズ第6戦だ。延長12回裏、2死の場面で最後に山田からの送球を受けウイニングボールを掴んだのは一塁の荒木だった。2021年のヤクルトは荒木で終わったのである。

2021年のヤクルトを、プロ野球を映像で振り返るとき、川端の決勝打とともに日本一の瞬間は幾度となく流れることだろう。そのたびに荒木がファンの目に映ることになる。地味だけれども最後まで残る。なんだかとても荒木らしい。

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