延長12回制なら年間投球回数は約10増加
昨シーズン6年ぶりにセ・リーグを制したヤクルトは、中継ぎ陣が優れていた。清水昇がNPB記録となる50ホールドをマークする大活躍。その他にもシーズン途中から守護神となったマクガフや今野龍太らがフル回転し、強固な中継ぎ陣を形成した。シーズン149ホールドはセ・リーグ記録にもなっている。
だが今シーズンは9回打ち切りではなく、延長12回制となることが濃厚だ。昨シーズンとは投手の起用法そのものが変わってくる。あたりまえではあるが引き分けの数も減り、チーム全体の投球回数も増加する。それを誰かが穴埋めしなくてはならない。
昨シーズンのヤクルトにおけるチームの総投球回数は、1260.1回だった。一方、延長12回制で行われた2019年は1270回、2018年は1274.1回。単純計算ではあるが年間で10回程度は増えることになる。
143試合の中での10回は小さく見えるかもしれないが、そんなことはない。現在、一般的に中継ぎ投手の3連投(以上)はシーズン終盤をのぞき、避ける傾向にある。そのため、1試合、それも1回を投げるだけでも、翌日以降の起用法に大きな影響を与える。単に信頼のおける清水やマクガフら、勝ちパターンの投手たちの投球回数を増やせばいいわけではないのだ。
近藤弘樹がK/BB、HR/9ともに好成績
昨シーズンのヤクルトの中継ぎ陣は、10人が20試合以上に登板した。その10人のK/BBとHR/9を調べてみると下記の表のようになる。
ちなみにK/BBは奪三振と与四球の比率を表す指標で、数字が大きいほどいい。昨シーズンのリーグトップは谷元圭介(中日)で18.00(18奪三振/1与四球)であり、ヤクルトのチームK/BBは3.11でリーグトップだった。
一方、HR/9は1試合(9回)あたりの被本塁打数を表す指標で、数字が小さいほどいい。昨シーズンのリーグトップはスアレス(阪神)らの0.00で、ヤクルトのチームHR/9は1.03でリーグワーストだった。
もっとも登板数の多かった清水はK/BBが3位だったものの、1試合あたりの被本塁打数を表すHR/9はワーストだった。順位を見るとよくわかるがK/BBとHR/9はなかなか両立しない。三振を奪ったうえで、与四球を減らすにはゾーンで勝負することが必須。そうなると当然、被本塁打の数も増えてくる。
そのなかで、K/BB、HR/9ともに好成績を残しているのが近藤弘樹である。昨シーズンは肩の肉離れで5月末に戦線離脱。その後、日本シリーズまで登板することはできなかった。今キャンプでも二軍スタートとなっており、完全復活には少し時間がかかるかもしれない。
それでも昨シーズン22試合(18.2回)の登板だった近藤が復帰すれば大きい。開幕からフル回転はできなくとも、交流戦頃から復帰できれば、昨シーズンの数字にプラス10回となる28.2回を投げることは決して高望みではない。
勝ちパターンの投手と遜色ない、いや指標だけを見ればそれ以上の成績を残した近藤が穴を埋められれば、チームにとってはこの上なく大きいだろう。
石山は9月以降にK/BBとHR/9が大きく改善
フル回転した投手の中では石山が注目される。清水、マクガフ、今野の3人は、開幕から優勝決定まで五輪中断期間をのぞいて登録抹消がなかった。
そのなかで石山も58試合に登板している。ただ、開幕から守護神を任されるも打ち込まれるケースが多く配置転換。さらには6月下旬に登録を抹消された。9月以降は調子を取り戻し、21試合の登板で失点したのはわずか2試合だけ。防御率0.89と優勝に大きく貢献している。
K/BB、HR/9も8月までと9月以降で、その差は歴然だった。8月末までK/BBは例年と同程度だったが、HR/9が極端に悪かった。だが、9月以降のK/BBは14.00と圧倒。HR/9も例年と遜色ない数値をマークしていた。
清水、マクガフ、今野の3人が勤続疲労により登板数を減らしても、通算85セーブと実績のある石山が穴を埋めることができれば、チームとしては問題ない。
増えるであろう投球回数、想定される勤続疲労。このふたつの課題を近藤と石山のふたりが埋めることができるかが、連覇へ向けた大きなポイントとなりそうだ。その他ではシーズンを通して一軍で戦力となることのできなかった梅野雄吾や坂本光士郎らの存在もある。もちろん先発投手陣だって1回でも多く投げられるよう腕を振るうだろう。
高津臣吾監督は日本シリーズでしか延長12回制の経験がなく、シーズンでは初めてとなる。昨シーズンより増加する”10回”を近藤や石山を中心に補っていくのか。それとも違う手段なのだろうか。どのようなマネージメントを見せてくれるのか楽しみだ。
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