2軍の高知・安芸キャンプで土台作り
阪神のドラフト1位、森木大智投手(18=高知)は2軍の高知・安芸キャンプ終盤、充実感たっぷりに語った。「順調に来ていますし、とても良いキャンプになっています」
注目ルーキー、ましてや阪神のドラ1となればドラフト会議直後からメディアの取材攻勢にあい、必要以上に気張って、訳も分からないままキャンプを終えて、という例は過去に何度もあった。球団も慣れたもので、あえて手綱を強く握ってルーキーならではの「迷走」に配慮してきた。
安芸キャンプでも、早々に「2月中の登板なし」をアナウンスして、金の卵を土台作りに専念させた。実戦デビューはキャンプ打ち上げ後の3月上旬の2軍戦に設定されており、どんな球を投げるのか、あれからどれほど成長したのか、楽しみは尽きない。
高知高校入学時に聞いた居酒屋での会話
今から3年前。高知高校に入学した直後の森木を取材した。彼は高知中学3年時に軟式球では中学史上最速とされる150キロをマークし、一躍全国的な注目選手になった。まだニキビの残る顔はあどけなかったが、マウンドから投げるボールはすでに超高校級。そのときに周辺に聞いた話では「150キロは狙って投げた」そうだ。
軟式球で球速を出すのは難しいとされる。指先の力を、軟らかいボールの芯に集中させるのが難しく、少しでもズレれば、ボールはどこかに飛んでいってしまうそうだ。狙って投げた150キロのすごさを垣間見た。
その夜、高知市内の居酒屋で郷土料理に舌つづみを打っていると、店主がカウンター越しに常連とおぼしき客たちと野球の話をしていた。「中西が…」「球児が…」。高知県が生んだ豪腕たちの名前がかすかに聞こえてきた。会話の邪魔をしないように店主に聞くと「高知の人は野球が好きやき」と言う。
森木の話題だったそうだ。県内では「学園」と呼ばれる高知高校に入りたての15歳が、居酒屋で話題になっていることに驚いた。甲子園で活躍し、プロで一流になった中西清起、藤川球児(ともに元阪神)と重ねるのも自然なことだった。
高知高校は東京五輪が行われた1964年にのちにロッテの大打者となる有藤通世を擁して、夏の甲子園で優勝している。そして2021年。2度目の東京五輪の年に高校3年生を迎えたのが森木だった。一部の野球ファンの間では知られていた偶然の巡り合わせ。いや応なしに、スーパー右腕への期待は高まっていた。
いわば郷土の期待を一心に受けた森木だったが、甲子園には1度も届かなかった。それでも最速を154キロまで伸ばして見事にドラフト1位でプロ入りを果たした。年明け、阪神鳴尾浜球場で約3年ぶりに見た森木の姿は、当然ながら一回り大きくなっていた。
故郷の先輩・藤川球児氏からアドバイス
安芸から聞こえてくる評はすこぶるいい。終盤には藤川球児氏からのアドバイスも受け、試合に投げなくても各メディアは詳細に森木の動向を追った。
「真っすぐの力をボールに伝えることがテーマです。キャッチャーに対して無駄な力なく、真っすぐ体重を移動していく。そうするとおのずとボールもまとまってくる」
良質な直球を求めて、故郷高知で1カ月間、フォーム固めを続けてきた。今はまだ無限の可能性を秘めたプロ野球生活の第1歩。高校時代に叶えられなかった甲子園で活躍する夢は、プロでは現実的な目標に変わった。中学時代と同じように、高知県民のみならず、日本全国の虎党に大きな期待を抱かせてくれる選手であることは間違いない。
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