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「プロ野球選手名鑑」制作秘話 写真撮影でゴタゴタ、誕生日ミスも「プレゼント2度もらえてラッキー」

2022 2/25 11:00山田ジョーンズ
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個人情報も載っていた昔の選手名鑑

2月半ば、マスコミ各社から「プロ野球選手写真名鑑」が競うように発売される。「選手名鑑」とは顔写真と選手紹介文からなる。紹介文は、生年月日をはじめ身長・体重・血液型、出身校、ドラフト順位、趣味、成績、どんなタイプの選手であるか等が書かれている。今回はこの制作秘話を紹介したい。

40年ほど前までは住所、家族の名前、車種なども掲載されていた。筆者は選手の出身校を覚える趣味が高じてプロ野球記者になったのだが、「住所や家族の名前、車種が書かれていて、選手に迷惑をかける人がいるのではないか」と心配したものだ。なぜならその選手名鑑号を見て、近所にプロ野球選手が住んでいることが判明したからだ。「どんな家なのか行ってみようかな」と思わず考えてしまう。さしずめ現在なら「個人情報」を売っているようなものだ。

作る側になって気づいたことがある。選手の身長はともかく、名鑑号に記されている体重は入団10年たっても変わらない。「自分と同じ体重70キロとは思えない。ヘタすれば90キロはある……」。選手が自己申告はしないから、記者が確かめなければいつまでたっても体重は変わらない。逆に60歳近くなって10年ぶりくらいにコーチとして球界復帰した人は、身長・体重が減っている。年老いて縮んだのだ。

出身校はマストな項目だ。出身校によってプレーのタイプが表れる。例えば、明治大学出身選手は気迫を全面に押し出す、早稲田大学出身選手はクレバーなプレー、中央大学出身選手はパワフル、駒沢大学出身選手は緻密なプレーと、一般的に言われているし、そのような選手が確率的に多い。

血液型にこだわった野村監督

まるで女性のように、名鑑号の血液型に注目したのは故・野村克也監督だ。「おい、アイツの血液型は何型や?」。野村監督の持論は、「野球のプレーは血液型に表れる。Aはコツコツ型。ABは気分屋。OとB、特にB型は爆発的な活躍をする。試しに名球会選手(投手で200勝か250セーブ以上、打者で2000安打以上)でB型を調べてみろ」。

筆者がだまされたと思って調べてみると、投手は金田正一(国鉄ほか=通算400勝)、稲尾和久(西鉄=シーズン42勝)、野茂英雄(近鉄ほか=ドクターK)。打者は野村克也(南海ほか=三冠王)、イチロー(マリナーズほか=日米でMVP)、福本豊(阪急=世界の盗塁王)、長嶋茂雄(巨人=ミスタープロ野球)、清原和博(西武ほか=通算500本塁打)、古田敦也(ヤクルト=強肩巧打のメガネ捕手)……、と名球会の中でも、さらにそうそうたるメンバーなのだ。

特に楽天時代の野村監督は血液型にこだわっていて、某コーチは「選手名鑑号縮小版」をいつもユニフォームの尻ポケットにしのばせ、いつ聞かれてもいいように備えていたそうだ。

そのほかにも、筆者はある選手の誕生日を記載ミスしてしまったのだが、その選手はこう言った。「他社の選手名鑑号が正しい誕生日を書いてあったので、誕生日プレゼントをファンに2度もらえてラッキーです!」

苦労が多かった写真撮影

顔写真に関しては、かつてはスポーツ新聞社をはじめとする6~7社が沖縄・宮崎のキャンプ地にカメラマンを派遣して撮影していた。しかし、選手70人・監督コーチ20人・スタッフ10人の計100人を撮影する。目をつぶってしまったときのことを考え1人3枚ずつ。

撮影時間が1選手1分と単純計算しても、最初のひとりの撮影開始から、最後のひとりの撮影終了まで約100分の差が出る。また、カメラマンの撮り忘れあり、選手の遅刻・欠席あり、双方から「いい加減にしてくれ」との声が上がり始めた。だから15年ほど前から各球団の専属スタッフが撮影し、新聞・雑誌・テレビの各メディアに写真一式を配布するようになった。

それまでは、室内トレーニング場にチーム100人が勢ぞろい。選手のバックに「男性トイレマーク」が映り込んだり、撮影が終了した選手が撮影中の選手を笑わせ、撮影中の選手が吹き出しそうな表情で写されたり、ネックレスをして撮影に臨む選手がいて、はずさせるのにカメラマンは苦労した。意外とトイレの鏡で髪をとかす選手も多い(帽子をかぶるので、意味がないと思うのだが……)。

ある会社は、かねてから「似ている」と評判だった広島のS選手とT選手の写真を取り違えて掲載した。ウソのような本当の話である。人間の制作するものだから絶対間違いはないとは言えないものの、「顔写真の取り違え」と「選手名の間違い」は選手名鑑号という性格上あってはならないことである。だから間違えると読者からのクレームの電話の嵐……。

一番大変なのは、新外国人選手の来日が遅れること。A社がアメリカから写真を購入してメジャーリーグ時代の顔写真を名鑑号に掲載した。B社はそのA社の顔写真を複写して、日本チームの帽子をかぶせ加工して掲載した。

「同じ人物の顔だからバレないだろう」。だが、たかが顔写真と言うなかれ。肖像権や版権があり、違法行為である。それがバレて大騒ぎになった。その会社は消滅して今はない……。かくも大変な「プロ野球選手名鑑号制作」なのだ。

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