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アクシデント?奥の手? 野球を知り尽くした打者になぜか多い「打撃妨害」

2022 2/6 06:00広尾晃
ヤンキース時代の松井秀喜
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Ⓒゲッティイメージズ

珍しい記録「打撃妨害」

「打撃妨害」はプロ野球の公式記録だが、極めてレアな記録のため、話題に上ることはほとんどない。NPBが発行する「オフィシャル・ベースボール・ガイド」では、打撃妨害は「打数」の横に▲で表示される。

「打撃妨害」は、打者の打撃を守備側が妨害したと審判が判断したときに宣告される。打者は一塁に歩き、打席はカウントされるが打数はつかない。当該する野手には「失策」がつく。ただし「出塁率」の計算をするときは「出塁」とはみなされない。

ほとんどの場合は、打撃の動作を開始した打者のバットに捕手のミットが触れた際に記録されるが、打者が打つ前に捕手など野手が本塁上やその前で投球を捕球した際にも「打撃妨害」が宣告される。非常に珍しい記録であり、2021年はDeNAの戸柱恭孝が1つ記録しただけだ。

「打撃妨害」はいわばアクシデントであって、狙って記録するものではない。打者の意志とは関係ない数字のはずだが、なぜか「打撃妨害」は、特定の選手が記録することが多いのだ。

歴史に名を残す「名選手」揃いの通算記録

ここからは歴代の打撃妨害の記録を見ていこう。通算の打撃妨害数をランキングすると、下表のようになる。

NPB打撃妨害数10傑,ⒸSPAIA


歴史に名を残す「名選手」揃いだ。1位の中利夫は中日のリードオフマン。俊足の名外野手だった。2位の与那嶺要は巨人、中日で活躍したスピード感のある強打者。以下、長距離打者もアベレージヒッターも、俊足打者もいる。

バットも左、右、両打と様々だが、一つ共通しているのは「バットコントロールが良い」ということ。三振数が多くなく、ミートが巧みな打者が多い。そして、ほとんどが「昭和の時代」の打者で、平成までプレーしたのは高橋慶彦と栗原健太だけだ。

続いてシーズン記録を下表にまとめた。

シーズン打撃妨害5傑,ⒸSPAIA


1位の小玉明利は野村克也、長嶋茂雄と同世代で、弱小球団だった近鉄の中軸打者として活躍。2000本安打まであと33本の1967安打で引退した。近鉄での1877安打は球団史上最多だ。1960年はキャリアハイの20本塁打を打ち、ベストナインに選ばれている。

青田昇は巨人育ちの強打者で、「じゃじゃ馬」と言われたクラッチヒッター。1946年に阪急に移籍した。張本勲は言わずと知れたNPB最多3085安打を記録した大打者。1973年は、阪急の加藤英と激しい首位打者争いをして2位となった年だ。

小林晋哉はしぶとい左の打者として活躍。規定打席には1度しか到達していないが、三振が少なくシュアな打者だった。通算打撃妨害は8だが、1983年2、84年4、85年2とわずか3年で記録している。

栗原健太は2000年代の広島の中心打者。長距離打者だが、シーズン三振数は一度も100を超えたことがない。WBC日本代表にも選ばれ、安定感のある打撃を見せたが、怪我が多すぎたために通算1082安打で終わっている。

MLB移籍後に急増した松井秀喜

「打撃妨害」はアクシデントであり、狙って記録できるものではないだろう。作為的にバットをミットの前に出せば、捕手の捕球や次の動作を妨害したとして「守備妨害」に問われる危険性がある。

打撃妨害が多い打者も「意図的に取りにいった」とは言っておらず、「捕手のミットが偶然、バットに当たっただけ」としている。だが、バットコントロールが巧みな打者が、ミットにほんの少し触れるようにバットを出していると見えなくもない。

1960年代(1960~1969年)には両リーグ合わせて80の打撃妨害が記録されたが、2000年代(2000年~2009年)は42、そして2010年以降は19しか記録されていない。明確な原因は不明だが、21世紀以降、NPBの公式戦はすべて映像で記録されており、打撃妨害を“取りにいく”のは難しくなっているのかもしれない。

そんな中で、意外な大打者が「打撃妨害」についてのコメントを残している。巨人、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜だ。NPB時代には1999年と2000年に1つずつ打撃妨害を記録していた。一方、MLBでは2003年から12年の10シーズンで10、2009年から11年の3シーズンでは8つも記録していたのだ。

そんな松井がエンゼルス時代の2011年に「捕手のミットがバットに当たって打撃妨害となったが?」と記者に聞かれた際に、こう答えていた。「僕の得意技ですから(笑)」

打撃妨害は、野球の技術とは言えないが、野球の奥義を極めた名選手たちがこそっと使う「奥の手」なのかもしれない。

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