NPB記録まであと1本に迫った川端慎吾
今年の日本シリーズは第6戦でヤクルトの代打、川端慎吾の左前打が決勝タイムリーとなって幕を閉じた。今季の川端は代打として近年まれにみる大活躍だった。
では、どれほどの活躍だったのか過去の記録と比較してみたい。過去10年（2012年以降）のNPBの代打成績について見ていく。まずはシーズン代打安打数のランキング。
今季の川端はトータルでは91試合に出場したが守備（一塁手）に就いたのは7試合だけ。スタメン出場は一度もなく、代打で89試合に出場して30安打を放った。シーズントータルでは32安打となっているが、残りの2安打は代打で出場した後、2打席目が回ってきて打ったものだ。
代打でのシーズン30安打は、川端の先輩であるヤクルトの真中満が2007年に作った31安打（94打数）のNPB記録に、あと1本と迫る大記録だった。代打で89打席も真中満の記録に次ぐ史上2位、ここ10年では最多だ。
川端は2015年に首位打者をとったが、2017年に椎間板ヘルニアを発症。以後、死球による脳震盪などアクシデントが相次ぎ、出場機会が減少していた。2019年からは主として代打に回っていたが、2019年の代打成績は22打数5安打、打率.227、2020年は35打数5安打、打率.143と目立つ成績ではなかった。
だが、今季は初めて出場した3月27日の阪神戦（神宮）で代打安打を記録。3試合目の出場となった3月30日のDeNA戦（横浜）では決勝の代打二塁打と春先から結果を出し、終盤以降は絶対的な「勝利の切り札」になっていった。
川端は代打での打点を18挙げているが、これはここ10年では2位タイの記録だ。
2012年の広島・前田智徳はすでに41歳。既に2000本安打を達成した大打者だったが、代打に徹して多くの打点を稼いだ。左の中距離打者として偉大な実績を残しながらベテランになって代打に徹し、チームに渋い貢献をしたという点では、今季の川端に通じるところがある。
代打で.568の高出塁率を記録したジョーンズ
代打は、投手が打席に立つセ・リーグのほうが起用回数が多いため、打撃成績では上位を占めることになる。そこで、パ・リーグだけに限って、ここ10年の代打安打数をランキングすると、下表のようになった。
2012年のロッテ福浦和也など4人が記録したシーズン14安打が最多だが、今季のオリックス、アダム・ジョーンズはそれに続く12安打を記録している。
ジョーンズはイチローがいた時代のマリナーズでMLBデビュー。オリオールズなどで通算282本塁打を記録し、オールスターにも5回選出されたスター選手だ。それだけに日本でも大いに活躍が期待されたが、1年目の2020年は87試合で打率.258、12本塁打、43打点と、今一つの成績に終わった。今季も不振が続いたが、ジョーンズは自ら申し出てスタメンを外れ、代打に専念した。
代打となったジョーンズは大振りせず、ファーストストライクを軽打するバッティングに徹し、安打を量産。また投手の制球が悪いと判断すると四球も選び、代打では12安打9四球と21回も出塁。出塁率は.568にも達した。日本シリーズの第5戦では、大接戦となった9回に代打で出場して決勝本塁打を放つ大殊勲を上げている。
今年の春季キャンプ初日の2月1日、筆者は宮崎県西都のヤクルト二軍キャンプを取材した。川端は二軍スタートだったが、午後になるとグラウンドでは初日にもかかわらずバッティングゲージに入って黙々と打撃投手の球を打ち込んだ。鋭い打球が飛び、自主トレで身体を鍛え上げてキャンプインしていることがうかがえた。
ここ10年の代打実績を見ても、川端慎吾、ジョーンズ、前田智徳に加え、小笠原道大、福浦和也、高橋由伸、阿部慎之助など、全盛期は中軸打者として大活躍した選手の名前が並んでいる。こうした大選手はレギュラーを外れ、1打席にかける代打稼業に回ってもこれまでの経験を生かして結果を出しているのだ。
そういう意味で代打は「ベテラン打者の経験値が生きるポジション」ということも言えるのではないか。
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