セ・リーグは左右の偏りなく規定に到達
野球という競技を複雑で魅力的にしている要素の一つに「右打ち」と「左打ち」、「右投げ」と「左投げ」がある。バットを構える向き、ボールを投げる腕が異なることで、投打の力関係が変わってくる。指揮官はそのために投打の「左右の別」に神経を配るのだ。
今回は2021年規定打席に到達した打者について、右打ちと左打ちに分けて成績をみていく。
まずはセ・リーグの右打者。赤字はリーグ最高。OPSは「出塁率+長打率」で導き出せる打者の総合指標。下段には平均の数値も出した。
2021年セ・リーグ首位打者の鈴木誠也は、OPSでもリーグ1位と圧倒的な数字を残している。これに続いてDeNAは新人の牧秀悟、桑原将志、宮崎敏郎と3人の右打者が3割をマーク。以下、ヤクルトでリーグ優勝に貢献した中村悠平、塩見泰隆と続く。
ベストナインに選ばれたヤクルトの山田哲人、巨人の坂本勇人、さらには本塁打、打点の二冠王に輝いた巨人の岡本和真らも右打者だ。
続いてセ・リーグの左打者を見ていく。
2021年大ブレークして打率2位になった広島の坂倉将吾が1位、続いて阪神でベストナイン、ゴールデングラブに輝いた近本光司。さらにDeNAの佐野恵太と続く。
右打者と比較すると、俊足の巧打者が多い印象がある。近本、広島の小園海斗、中日の大島洋平、盗塁王になった阪神の中野拓夢ら1、2番を打つ打者が多いのだ。
もちろん右打者にもヤクルトの1番・塩見がいるから断言することはできない。だが、左打者は右打者よりも一塁に半歩近いとされており、出塁を求められるリードオフマンには左打者の方が有利と言えるだろう。
規定打席以上は32人だが右打者は53.1%の17人。左打者は46.9%の15人。NPB全体では、育成も含む463人の野手のうち52.9%の245人が右打ちに対し、左打ちは47.1%の218人だ。セ・リーグの場合、右左の打者の比率はほぼ全体と同じだった。
しかしパ・リーグでは様相がガラッと変わる。
パは左打者偏重、両打は規定到達者0人
パ・リーグでは29人の規定打席以上の打者のうち、右打者はわずか27.6%の8人のみ。日本ハムに至っては、規定打席に到達した右打者はいなかった。
本塁打王のタイトルを獲得し、オリックスの優勝に大きく貢献した杉本裕太郎がかろうじて3割をキープしたが、3割打者はその1人だけ。ロッテの荻野貴司は、リードオフマンとして最多安打、盗塁王を獲得するも、打率3割には惜しくも届かなかった。その他の選手は中軸を打つ打者が多いが、成績的にはあまりパッとしない印象だ。
続いてパ・リーグの左打者では、2年連続首位打者のオリックス・吉田正尚を筆頭に、21人が規定打席に到達した。
強打の捕手・西武の森友哉、リーグを代表する強打者のソフトバンク柳田悠岐、さらにずば抜けた出塁率で知られる日本ハム近藤健介など、そうそうたる顔ぶれが並ぶ。打点王の楽天、島内宏明も左打者。盗塁王を分け合った4選手のうち、ロッテの荻野を除く、西武・源田壮亮、日本ハム西川遥輝、規定打席未達だがロッテの和田康士朗も左打者だ。
日本球界では「野球は左打者が有利」と言われる。確かにNPB最多本塁打の王貞治、最多安打の張本勲、最多盗塁の福本豊、最高打率のレロン・リー、シーズン最多安打のイチローら打撃記録の上位は、ほぼ左打者に独占されている。
確かに左打者が優位なのだろうが、一方で、左打者は左投手を苦手にする傾向が強いと言われる。左打者が成功するカギは「左投手をいかに攻略するか」だ。パ・リーグに左の有力打者が多いのは、左投手を克服した打者が多いということかもしれない。
なお、左右両打、いわゆるスイッチヒッターで1軍の試合に出たのは、セパ合わせて15人だけ。規定打席到達者はなく、巨人の若林晃弘の242打席が最多だった。
MLBでは史上最強のスイッチヒッターと言われたヤンキースのミッキー・マントルをはじめ多くの両打の強打者がいた。2021年のMLBでも36本塁打103打点をマークしたインデイァンスのホセ・ラミレス、ツインズで33本塁打98打点のホルヘ・ポランコなど、両打ちの打者は「第3勢力」というべき勢力図になっている。
日本でも両打のスラッガーが出ないものか。「二刀流」ほど大きな話ではないが、筆者はそういう打者の出現をひそかに期待している。
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