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BB/Kから見えてくる打者の「進化の道筋」対照的な阪神マルテと佐藤輝明

2021 10/31 06:00広尾晃
阪神タイガースのマルテ,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

BB/Kから見えるセ・リーグ打者のタイプと傾向

BB/Kは打者に関するセイバーメトリクスの指標だ。四球数を三振数で割った単純な数値だが、打者の様々な特徴が見えてくる。BB/Kの数値が大きい選手は四球が多く三振が少なく、選球眼が良いといえる。そして数値から、打者のタイプや傾向といった深い部分も見えてくる。

セ・リーグBB/K10傑(300打席以上),ⒸSPAIA


意外なことに、セでBB/Kが最も高いのは阪神のマルテだ。今季は主として3番を打って勝負強い打撃を見せたものの、打撃成績的には抜群ではなかった。しかし優れた選球眼でチームに貢献した。

ランキングを見ると、BB/Kが高い選手には2つのタイプがあることが分かる。一つは四球も三振も多い選手だ。これは本塁打の多いスラッガーでもあるので、相手投手が警戒し四球になることが多い。

だが、同時にフルスイングもするので三振も多くなる。三振は本塁打のコストでもある。広島の鈴木誠也、村上宗隆、山田哲人のヤクルト勢などがこれにあたる。

もう一方は四球も三振も少ない「早打ち」タイプだ。ファーストストライクから積極的に打っていくので、好球必打のアベレージヒッターが多い。ヤクルトの青木宣親、中日の大島洋平などがこれにあたり、イチローもこのタイプになる。

では、セのBB/Kワースト10はどんな顔ぶれだろう

セ・リーグBB/Kワースト10(300打席以上),ⒸSPAIA


荒っぽい印象がある外国人打者の名前があるのは納得でき、「若手」が多いとも言えるため、新人王争いをする阪神の中野拓夢、佐藤輝明、DeNAの牧秀悟らの名前が並んでいる。

デビュー直後はプロの投手についていけず三振の山を築くことが多いが、それにもめげず積極的にバットを振る選手が少しずつ数字を上げていく。

それにしても佐藤の数字はすさまじい。シーズン173三振は日本人選手では歴代3位の多さだ。四球の少なさから、後半戦は投手の「カモ」になっていたことも分かる。

パ・リーグの「打撃の神様」

パ・リーグBB/K10傑(300打席以上),ⒸSPAIA


パ・リーグには、セにはいない異次元の選手がいる。BB/Kが2を超えているオリックスの吉田正尚だ。めったに三振をしないのに、選球眼が良く出塁を稼ぐ。投手にとっては攻略法がないお手上げの打者だろう。

1951年、川上哲治は424打席に立ってわずか6三振、48四球を選びBB/Kは8.00に達し、当時のNPB記録の打率.377で首位打者になった。時代が違うため単純比較はできないが、吉田もかつての「打撃の神様」の領域に近づいているのかもしれない。

パ・リーグの方がBB/K1.00を超えている選手が多い。選球眼の良い打者が多いということだろうか。

パ・リーグBB/Kワースト10(300打席以上),ⒸSPAIA


ワーストには西武の岸潤一郎、愛斗、日本ハムの野村佑希、オリックスの紅林弘太郎と今年売り出し中の若い選手が多い。新人を抜擢する指揮官は多少の三振には目をつぶり、結果が出るまで我慢しながら起用する必要があるのだろう。

とはいえ、いつまでも三振の山を築く選手、K/BBが向上しない選手は進歩がないと判断され、次第に使われなくなる。

BB/Kの改善によって進化した村上宗隆

ヤクルト村上宗隆のBB/Kの推移,ⒸSPAIA


2019年に19歳で36本塁打96打点をマークして大いに注目された村上は、この年に日本人最多の184三振を喫した。四球も74と多かったが、BB/Kは0.40。当たれば大きいが、振り回す荒っぽい打者だった。

だが、ここ2年のBB/Kは大きく改善している。「三振かホームランか」のフリースインガーではなく、狙って本塁打が打てる怖い打者へと成長したのだ。阪神の佐藤も村上と同様進化の道筋をたどるなら、今年の膨大な三振やワーストのBB/Kは「有益な授業料」と見なすことができるようになるはずだ。

※成績は10月29日現在

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