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先発投手の新たな評価基準「HQS勝敗」セ1位は柳裕也、山本由伸は19勝

2021 10/23 06:00広尾晃
中日の柳裕也とオリックスの山本由伸,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

7回以上自責点2以下で1勝とカウント

セイバーメトリクスの指標に「QS(Quality Start)」というものがある。先発投手が6回以上を投げて自責点3以下に抑えることで「先発投手の最低限の責任」と言われる。

投手は好投していても援護がなければ勝ち星が付かない時がある。また失点が嵩んでも援護点がそれを上回って勝ち星が付くときもある。

勝敗は投手にとって最も重要な評価ではあるが、味方打線や試合展開に左右されるので、必ずしも実力を正確に反映しているとは言えない。

そこでチームの勝敗に関わらず、先発として一定のイニング数を投げて一定の自責点以下に抑えたら「QS」という評価を与えようというものだ。QSはMLBの公式サイトの「STATS」欄にもあり、公的に認知された指標だと言える。

6回自責点3は、防御率に換算すると「4.50」になる。MLB全体の平均防御率は4.3前後であり、4.50であれば「最低限の責任を果たした」という解釈だが、NPBの平均防御率は3.5前後のため「責任を果たしたとは言えない」という声もあり「HQS(High Quality Start)」という指標が考案された。

これは先発投手が7回以上を投げて自責点2以下に抑えたときにつく。QSより厳しい基準だ。防御率に換算すると2.57、これをクリアすれば日米ともに「好投」と言えそうだ。まだ公式サイトでは取り上げていないが、記録ファンには認知されつつある指標だ。

仮に投手の先発成績を、HQSを「勝利」、QSは「勝敗なし」、QS未満は「敗北」とみなして勝敗を付けたらどうなるだろうか。今季10月20日時点での両リーグで100イニング以上投げた先発投手について調べてみた。

12勝8敗の九里亜蓮のHQS勝敗は5勝7敗

まずはセ・リーグから見ていこう。

セ・リーグ100イニング以上の先発投手HQS勝敗


今季のセ・リーグは阪神の青柳晃洋、広島の九里亜蓮が12、13勝のラインで最多勝争いをしているが、HQSを基準にすると中日の柳裕也が13勝でトップに立つ。

実際の勝ち星1位の青柳は12勝で2位。実際は12勝の九里はわずか5勝となる。九里はQSこそ16記録しているが、HQSは5しかない。失点がかなり多く、打線の援護によるところが大きいのだ。防御率も3.87と2点台の柳や青柳から比べると見劣りする。

11勝の巨人・高橋優貴もHQSでは6勝。投球内容は決して良くはなかった。

逆に広島の大瀬良大地、中日の大野雄大というエース級は今季、二桁勝利に届かない可能性があるが、HQSではともに11勝。今季はやや好投が報われない傾向にある。

巨人のエース菅野智之は今季5勝と苦しんでいるが、HQSでも7勝。今季はあまり良いシーズンとは言えない。

実際は9勝の阪神・ガンケルはHQSでは3勝だが、外国人投手の場合「6回まで」「100球まで」のような契約を結んでいる可能性もある。前述のようにMLBではQSが先発投手の責任であり、それ以上は求められていないという事情もあるのだ。

4勝8敗の田中将大のHQS勝敗は10勝6敗

続いてパ・リーグを見ていこう。

パ・リーグ100イニング以上の先発投手HQS勝敗


今季、ダントツの快投を見せているオリックスの山本由伸が、HQS勝敗でも19勝でトップ。今季は9回引き分けになったために、各球団ともに15前後の引き分け数となっていて、投手の勝利数が伸びにくくなっている。山本も9回0封で引き分けとなり、勝利が付かなかった試合があったが、延長戦がある例年ならば、20勝していてもおかしくなかったはずだ。

楽天の田中将大は援護点が少なくてわずか4勝だが、HQSでは10勝となる。抜群ではないにしても、チーム最多勝であり責任は果たしていると言えよう。

なお2013年、24勝0敗という空前の成績を残した田中のHQSは23、27登板すべてがQSであり、HQS勝敗でも23勝0敗となる。恐るべき成績を残していたことがわかる。

オリックスの2年目・宮城大弥は実際には12勝だがHQSでは9勝であり、やや援護点に助けられた印象があるのは否めない。

ロッテの岩下大輝は実際には8勝8敗だが、QSは10あるもののHQSは1だけであり、HQSでは1勝11敗ということになる。防御率は4.24で、打線の支援が大きかったことを意味している。

MLBではデグロムが10勝でサイヤング賞

2018年、MLBではナ・リーグのサイヤング賞は10勝9敗のメッツ、ジェイコブ・デグロムが30票の1位票のうち29票を集めて選ばれ、18勝7敗で最多勝を挙げたナショナルズ、マックス・シャーザーは1位票は1票だけで2位だった。

10勝はペナントレースが60試合で行われた2020年を除けば、歴代の受賞者中で最少だ(デグロムは翌2019年も11勝8敗で連続受賞)。この年の2人はともにリーグ最多の28QSを記録したが、HQS勝敗で比べるとデグロムは18勝5敗に対しシャーザーは14勝5敗だった。

HQSはMLBではあまり用いられないが、サイヤング賞の投票をした記者は、勝敗などの表面的な数字ではなく、投球内容を重視したと言えるだろう。

日本の沢村賞では近年、NPB流のQS(7回以上投げて自責点3以下)を評価基準に加えたが、いまだに勝利数、勝率、完投数などの指標を重視している。

沢村賞はサイヤング賞と異なり、両リーグで1人だけ選出される。今季はオリックスの山本由伸が当確だろうが、評価が分かれる際にはHQS勝敗もぜひ考慮してほしいものだ。

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