バムガーナーは2年で計36勝、9本塁打、24打点
MLBの「シルバースラッガー賞」は、各ポジションで最も打撃成績が良い選手に授与される「打撃のベストナイン」だ。投手が打席に立つナショナル・リーグでは「投手部門のシルバースラッガー賞」もある。
下の表は過去10年の投手のシルバースラッガー賞受賞者とその成績だ。
毎年、打者顔負けの打撃成績を残している投手がいることが分かる。マディソン・バムガーナー（当時ジャイアンツ）は2014年に18勝を挙げて、4本塁打、15打点、翌2015年も18勝を挙げて5本塁打、9打点をマーク。また、2019年のザック・グレインキー（アストロズ）は3本塁打、8打点で、OPS（出塁率＋長打率）は.883だった。7割強とされる打者の平均を上回っている。
シルバースラッガー賞を受賞する投手は、投手成績も一線級であることが分かる。エース級の投手の多くは、打席に立っても勝利に向けて貪欲にバットを振るのだ。
なお2020年は新型コロナ禍の影響で、ア・ナ両リーグの枠を超えて地域を限定した対戦カードが組まれ、全試合でDH制を導入したため投手のシルバースラッガー賞は選定されなかった。
日本では2019年の投手の本塁打0本
日本でもセントラル・リーグはDH制を採用せず、投手が常時打席に立っている。もし、NPBでも投手のシルバースラッガー賞を制定すればどうなるだろうか。投手の打撃成績をもとに過去10年について選定してみた。
端的に言ってMLBに比べて迫力不足の印象は否めない。OPSが.700を超える投手は2017年のDeNAウィーランドと、2020年の広島・大瀬良大地の2人だけ。普通の野手並みの打撃を見せる投手は非常に少ないのだ。
特に物足りなく感じるのは本塁打だ。ここ10年で複数の本塁打を打った投手は、2017年のウィーランドの3本だけ、2019年は投手の本塁打は0本だった。
毎年のように30打席以上立って無安打という選手も出てくる。2017年の中日・大野雄大は48打席に立って40打数0安打、8つの犠打こそあったが完全な安全パイだった。NPBでは「投手は投げることに専念すればいい」という考え方が根強く、指導者によっては「3回バットを振ってこい」と投手に言うこともあるようだ。
しかし昭和の時代はそうではなかった。投手の通算最多本塁打は、史上最多の400勝を記録した金田正一の36本だ（他に代打で2本）。6本塁打18打点を記録した国鉄時代の1962年には、4回も敬遠されている。
また巨人の堀内恒夫は1967年10月10日の広島戦でノーヒットノーランを達成するとともに3打席連続本塁打、4打数4安打5打点をマークした。
「投手だから打てなくても構わない」ということであれば「それならセもDH制を導入すべきだ」という議論も出てくるだろう。
春季キャンプでは、ランチタイムに投手が打撃練習をすることがしばしばある。多くの投手は打撃練習が好きだ。プロに行くような投手は高校時代は中軸打者だったことも多く、野手顔負けの当たりを飛ばす投手もいる。その気になれば、打者としても戦力になる投手はもっといるはずだ。
ア・リーグにシルバースラッガー賞があれば大谷翔平は確実
今季のNPBでは、DeNAの今永昇太が18打数6安打0本塁打1打点、打率.333 、OPS.667を記録している。また阪神の藤浪晋太郎は4月16日のヤクルト戦で、今季唯一の「投手のホームラン」を打っている。藤浪は打撃が得意な投手の一人で、通算3本塁打を記録している。
MLBではアトランタ・ブレーブスの23歳の右腕投手、ワスカル・イノーアが21打数7安打2本塁打6打点、打率.333、 OPS1.000を記録。また同じブレーブスの27歳の左腕投手マックス・フリードは38打数13安打0本塁打5打点、打率.342 、OPS.811を記録している。このあたりがシルバースラッガー賞候補だ。
アメリカン・リーグには投手のシルバースラッガー賞は制定されていないが、あれば受賞確実な成績を残している投手がいる。言わずと知れたエンゼルスの大谷翔平だ。
二刀流の大谷だが、投手として出場した試合だけに限って打撃成績を見ると、50打数12安打2本塁打7打点、打率.240、OPS.789となる。堂々たる成績だ。
野球では「投手の快打」は、ドラマチックな展開につながることが多い。投手も打席に立つ限りは1人の打者。戦力として安打、本塁打を狙ってほしい。
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