歴代の首位打者はセパともに左打者が多数
野球界では左打ちが有利とされ、半ば常識となっている。生来の左利きが少ないことから相対的に右投げの投手が多くなり、右投手のボールが見やすい左打者の方が打ちやすいという理屈だが、果たして本当だろうか。
アマチュアレベルならいざ知らず、プロでもいまだにそんな常識が通用するのか。そこで1950年の2リーグ分立後の歴代首位打者を調べてみた。
2020年までの72シーズンでセ・リーグは右打者が30回、左打者が39回、スイッチヒッターが3回タイトルを獲得している(同一選手でも1シーズンを1回としてカウント)。
パ・リーグは右打者が25回、左打者が45回、スイッチヒッターが2回とセ・リーグ以上に「左高右低」の傾向が顕著。首位打者に7回輝いた左打ちの張本勲やイチローがいたことも大きいが、それでも首位打者獲得回数が右よりも多いことは厳然たる事実だ。
対右投手だけでなく、左打席の方が一塁まで近いため、ぼてぼてのゴロが内野安打になる確率も右打者よりは高いだろう。安打数や打率を稼ぎやすいのは間違いなさそうだ。
セは最近10年間で右打ちが首位打者7回
ただ、リーグ別に最近10年の首位打者を見ると、少し違いがある。
セ・リーグは昨季までの10年間で、なんと右打者が7回もタイトルを獲得している。2011年の長野久義(巨人)、2013年のブランコ(DeNA)、2014年のマートン(阪神)、2016年の坂本勇人(巨人)、2017年の宮﨑敏郎(DeNA)、2018年のビシエド(中日)、2019年の鈴木誠也(広島)と1人で2回、3回と獲得した訳ではなく、全て違う右打者が並ぶ。
昨季の佐野恵太(DeNA)は意外にも川端慎吾(ヤクルト)以来5年ぶりの左打ちの首位打者だったのだ。
パは内川聖一が最後の右打ち首位打者
逆にパ・リーグは昨季まで9年連続で左打者が首位打者に輝いている。
2012年の角中勝也(ロッテ)に始まり、長谷川勇也(ソフトバンク)、糸井嘉男(オリックス)、柳田悠岐(ソフトバンク)、秋山翔吾(西武)、森友哉(西武)、吉田正尚(オリックス)とズラリと左打ちが並ぶ。右打ちでは2011年の内川聖一(ソフトバンク)以来、首位打者は誕生しておらず、今季も吉田正尚がリーグトップを走っている。
パ・リーグには千賀滉大(ソフトバンク)や山本由伸(オリックス)、涌井秀章(楽天)ら右投げの好投手が多く、最多勝や最優秀防御率のタイトルホルダーを少しさかのぼっても田中将大(楽天)や金子千尋(オリックス)、東浜巨(ソフトバンク)ら右投げが多い。
とはいえ、セ・リーグも大野雄大(中日)やジョンソン(広島)らタイトルを獲得した左腕がいるとはいえ、菅野智之(巨人)や大瀬良大地(広島)、前田健太(広島)、吉見一起(中日)ら本格派右腕も多い。
しかも吉田正尚は対右投手の今季打率.337に対して、左投手は.330とほとんど変わらない。さらに森友哉は対右.311、対左.367、柳田悠岐は対右.289、対左.321と左投手の方が好成績を残している。
セ・リーグを見ても同様で、右打ちの鈴木誠也は対右.302、対左.305とほとんど変わらず、左打ちの佐野恵太は対右.294、対左.333と左投手の方が得意にしている。一概に「右対左」の相性だけではなさそうだ。
つまり右投手も左投手も苦にしない打者が、より高い打率を残していると言えるだろう。
左投左打はパは稲葉篤紀、セは嶋重宣以来なし
ただ、共通点がひとつある。最近10年間の首位打者全員が「右投げ」だ。
左投げ右打ちの選手がほとんど存在しない以上、右打ちの選手が右投げなのは当たり前だが、左打ちの選手も右投げばかり。生来の左利きではなく、作られた左打者ということだ(時折、左利きなのに右投げの選手もいるが)。
右利きの左打者の方が利き腕でバットをリードしやすく、フォーム的にも利点はあるのかも知れない。サウスポー投手は貴重な存在だが、野手では左投げだと守るポジションも限定されるため、人数自体が少ないのもあるだろう。
左投げ左打ちの首位打者となると、パ・リーグでは2007年の稲葉篤紀(日本ハム)、セ・リーグでは2004年の嶋重宣(広島)までさかのぼる。
現在、打率争い上位にいる左投げ左打ちの選手は近本光司(阪神)や大島洋平(中日)、島内宏明(楽天)あたり。次に誕生する左投げ左打ちの首位打者は誰になるだろうか。
※成績は8月31日現在
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