先発陣で出色の与四球率0.99
リーグ首位を走る阪神タイガースを支えるのが安定感を誇示する先発陣だ。柱の西勇輝を筆頭に変則右腕の青柳晃洋、落ち着いたマウンドさばきを見せるルーキーの伊藤将司、来日2年目で“覚醒”したジョー・ガンケル…。
開幕投手の藤浪晋太郎が2軍降格となってもファームからは2019年のドラフト1位・西純矢ら続々と有望株が昇格してくる。
そんな潤沢なローテーションの中で、出色のパフォーマンスを見せる男が秋山拓巳だ。右腕の強みを語る上で欠かせないのは、球界最高レベルと言える制球力。5月終了時点で与四球率は0.99まで良化している。
27.1回連続与四死球なしを継続中
開幕から5月終了時点で7試合に登板して実に5試合が無四球。最も多かったのも4月15日の広島戦で記録した3四球と良質な投球を継続している。11勝を挙げた昨年も与四球率は0.96と驚異的で、今年も同水準の数字を残していることからも強みを生かした投球でチームに貢献していることがうかがえる。
自身の交流戦初登板となった5月26日のロッテ戦でも、真骨頂と言える投球で強力打線を牛耳った。「全体的にカーブとフォークが良かったですし。自信を持ってピッチングができました」
立ち上がりから付けいる隙を与えない。そのほとんどが130キロ台でも、ホップ成分が強い直球で面白いように凡飛を量産。落差のあるナックルカーブ、フォークも冴え渡り、ロッテ打線に的を絞らせない。
2回1死でブランドン・レアードの高く舞い上がった打球が左翼前に落ちる不運な安打となって以降18人連続アウト。8回1死で角中に中堅後方へ運ばれた二塁打が唯一の快音だった。
1点を失ったものの、106球で8回を投げ切り今季4勝目。前夜、セットアッパーの岩崎優が2ランを浴びて逆転負けした嫌な流れを払拭してみせた背番号46は「負の連鎖にならないようにというのは気をつけていた」と力強くうなずいた。
この夜も当然のように無四球で、3ボールまでカウントを作られたのは初回のレオニス・マーティンと中村奨吾のみ。5試合をまたぎ、27.1回連続で与四死球なしとなった。この数字に驚かないのも、2017年に記録した29イニング連続がキャリア最長だからだ。
リーグ1位に立つ「イニングピッチ」
そして、制球にリンクするもう一つの特長が球数の少なさ。常にゾーンで勝負し、無駄なボールがほとんど生じないことで、1イニングにかける投球数「イニングピッチ」は5月終了時点で14.4を記録しており中日・大野雄大と並んでリーグ最少だ。
規定投球回に未到達だったものの、昨年も14.2と実質1位の数字を残している。打者26人と対峙した先のロッテ戦でも、1人の打者に要したのは6球が最多。高卒1年目の2010年には100球未満の完封「マダックス」も達成している右腕の魅力を存分に示した夜だったのだ。
ローテーション飛ばされた悔しさもバネに
意地もあった。5月はロッテ戦がようやく2度目の先発マウンドだった。4月30日の広島戦で3勝目を手にした後は、チェン・ウエインに登板機会を与えるため一度ローテーションを飛ばされ、2軍戦を経て5月13日の中日戦へ。今回もコロナで広島戦が延期となったため、2戦連続で中12日での登板と変則的な調整を強いられた。
開幕ローテーションをつかみ取った身としては、スポット的な起用には当然、悔しさも募っていただろう。ようやく巡ってきた自己表現の場で秋山拓巳の真髄を対戦相手にも、チームにも示した。
2年連続の2桁勝利はもちろん、与四球率、イニングピッチでは2冠も狙える今季。円熟味の増した30歳が描く成長曲線は、さらに上昇していく。
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