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球団21年ぶり野手新人王へ向けて DeNA・牧秀悟の課題は動くボールへの対応

2021 5/29 11:00林龍也
横浜DeNAベイスターズの牧秀悟ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

開幕直後に猛打でチームを牽引した牧秀悟

大卒ルーキー野手たちの活躍が目覚ましい。阪神の佐藤輝明、西武の若林楽人らは主力として活躍してタイトル争いも繰り広げており、日本ハム・五十幡亮汰も頭角を現しつつある。彼らと並んで高いパフォーマンスを見せているのが、DeNAの牧秀悟だ。

開幕スタメンを掴んだ牧は、低迷するチームとは対照的に打ちまくった。開幕当初から勝負強い打撃を発揮し、チームを牽引。しかし徐々に失速し、一時は4割を記録した打率も2割台後半まで落ちた。27打点は堂々のリーグ6位だが、ここのところは壁に当たっている印象が否めない。「プロの壁」と言ってしまえばそれまでだが、好調時と不調時ではいったい何が違うのだろうか。

4月頭には4割を上回っていた牧の打率は、4月17日を境に3割5分を下回り、現在は2割台後半となっている。OPSに至っては4月17日以前は1.065をマークしていたのに対し、以後は.619と大きく落とした。SPAIAのゾーン別データ・打球方向データを見ると、打撃内容の違いは明らかだ。

引っ張り方向の打球が減り、ど真ん中の打率も7割台から1割台に

2021年度 ゾーン別データ・打球方向データ(3/26~4/17)ⒸSPAIA
2021年度 ゾーン別データ・打球方向データ(7/18~5/27)ⒸSPAIA


4月17日以前は真ん中高め以外で2割後半以上、多くのゾーンで3割以上をマーク。ど真ん中は8打数6安打と、高い確率で甘い球を仕留めていた。打球方向も左翼・左中間がともに31%と引っ張りが半分以上を占め、中堅から反対方向が39%となっていた。

一方、4月18日以降は真ん中高めのゾーンは.429と数字を上げたが、他のコースでは軒並み数字を落とした。ど真ん中に至っては10打数1安打と、甘い球を仕留め損ねている。

さらに、引っ張り方向の打球割合が減り、中堅から反対方向への打球が増えた。一見バランス良く打ち分けているようにも見えるが、成績から見ても捉えた打球が右方向に飛んでいるというわけではなさそうだ。

課題は追い込まれてからの打撃と動くボールへの対応

調子を落とした理由はいくつか考えられる。この数日前にネフタリ・ソトが復帰し、ポジションが二塁に変わったこと。開幕からスタメンで出続けたことによる疲労。そして、他球団から研究されたことだ。

牧は元々、二塁が本職の選手だ。比較的負担が少ないとはいえ、慣れない一塁守備の中よくやっていたと見るべきだろう。しかし数字の上では違いが顕著に出てしまっている。今後は負担の多い二塁守備と打撃の両立が求められる。

50試合中49試合に出場しており、疲労は間違いなくあるだろう。ルーキーなら尚更なのだが、一皮むけるためにもここは乗り越えていきたい。

では、打撃面での課題とは何か。まず、対右投手の打率が左投手と比べて悪いことが挙げられる。対左.327に対し、対右.261は確かに低い。しかしOPSに目を移すと対左.952、対右.753とそこまで問題視するほどではない。むしろ「左に強い」と捉えることができる。

次いで挙げられるのが、2ストライク時の打撃だ。2ストライク後の打率は.140(93打数13安打)と低く、三振も45個と打数の約半分を占めている。追い込まれてからの打撃に課題があるのは明白だ。ただ一方で、12打点と勝負強さも発揮していた。追い込まれてからの対応力を身につけることができれば、投手にとって非常に厄介な打者となりそうだ。

球種別では、カットボールの打率.063(16打数1安打)、ツーシームも打率.211(19打数4安打)と、速球系の動くボールへの対応に課題がありそうだ。4月18日以降に右方向の打球が増えているのは、こういったボールへの対策の影響もあるのかもしれない。

一方、フォークは打率.381(21打数8安打)、シュートは打率.500(10打数5安打)とよく打っている。決め球となり得るフォークに強いことは、今後の強みとなるだろう。

球団21年ぶりの野手新人王へ向けて

現時点で新人王のライバルは、野手では阪神の佐藤輝明だ。両者はここまでほぼ同程度の成績を残しているが、3月、4月、5月と調子を落としている牧に対して、佐藤は調子を上げてきた。また、佐藤は故障の大山悠輔に代わって4番を務めたが、牧は打順を7番まで下げている。ここまでは対照的な2人と言える。

佐藤以外には広島の栗林良吏も有力な候補だが、シーズンはまだ3分の1を過ぎたばかり。もし牧が新人王を獲得すれば、球団の野手としては2000年の金城龍彦氏(現・巨人コーチ)以来、21年ぶり3人目の快挙となる。残りの100試合ほどで牧がどんな成長を見せてくれるのか、期待したい。

※成績は5月27日終了時点

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