死角なし!両リーグトップの被打率.185
昨季、両リーグトップとなる被打率.185を記録し、149奪三振でパ・リーグ最多奪三振のタイトルに輝いたオリックス・山本由伸。防御率はリーグ2位の2.20だったが、tRA(真の失点率)2.27、FIP(真の防御率)2.24、WHIP(1イニングあたりに許した出塁数の指標)0.94、K-BB%(奪三振割合から与四球割合を引いた指標)0.23はいずれもリーグ1位だ。
メジャーのスカウトからの評価も高く、一部では巨人・菅野智之よりも評価が高いと報道されているほどである。
各球種の数字も圧巻だ。全球種の被打率が.250以下で、ストレート以外の球種で本塁打を打たれていない(SPAIA参照=https://spaia.jp/baseball/npb/player/1600153)。
さらに、投球割合の上位3球種にあたるストレート、フォーク、カーブの空振り奪取率(10%超で優秀とされる)は全て10%を超え、順に11.3%、26.4%、12.4%となっている。この3球種だけで投球全体の73.4%を占めるのだから、打者にとっては脅威でしかない。
極めつきはスライダーだ。全体の4%しか投じていない球種であるものの、その空振り奪取率は驚異の30.4%を誇り、奪三振の10.1%はスライダーによるものだ。
23歳の若さで、日本球界で最も攻略が難しい投手の一人となった山本由伸。この最強投手を打ち崩すことはできるのだろうか。
低めのボール球を振らせる投球術
山本由伸の特筆すべき点は、質の高いボールだけではない。打者から空振りを奪った際のヒートマップ(SPAIA参照)から、その卓越した投球術が見えてきた。
ヒートマップから、山本由伸が奪った空振りの多くは低めのボール球だとわかる。このほとんどが、ストライクゾーンからボールゾーンに落ちるフォークやカーブではないだろうか。
フォークやカーブの性質上、ストライクゾーンからボールゾーンに逃げるボールはワンバウンドしやすいため、バットに当てることは困難を極める。
打者にボール球を高い確率で振らせることができる技術は、山本由伸が打ち崩されないもうひとつの要因と言えるだろう。この投球術が、最多奪三振の原動力となったのは間違いない。
狙い球はファストボール系
ほぼ完璧とも言える数字が並ぶ山本由伸だが、狙い球が全くないわけではない。かなり難しいのは間違いないが、狙い球はストレート、カットボール、シュートのファストボール系に絞ることができる。
この3球種は被打率が.200を超えており、ストレートは全球種の中で唯一被弾している球種で、カットボールとシュートは空振り奪取率が10%を割っている。何よりも球速差が5km/h程度で、カットボールやシュートは変化量も小さく、ストレートとほぼ同じタイミングで捉えることができるため、フォークやカーブに比べるとアジャストしやすい。
しかし、変化量が小さく同じ球速帯とはいえ、カットボールやシュート自体がストレートと同じタイミングで振らせて、芯を外して凡打を稼ぐ球種なので、バットに当てることはできても簡単に攻略できるわけではない。そのため「ファール前提で打つ」ことが必要となってくる。
よくプロ野球解説者が「ファストボール系の変化球はフェアゾーンに打とうとすると詰まるから、ファールになる前提で打つ必要がある」と解説している。要するに、ストレートに多少振り遅れてファールになってもいいから、自分の懐に呼び込んで逆方向に引っ張るイメージで打つことが、ファストボール系の変化球の攻略方法ということだ。
さらにファストボール系の変化球の性質上、コースを攻め切れなかったボールは、振り抜けば外野の前に落ちるポテンヒットになりやすい。地味な攻め方かもしれないが、この3球種だけで投球全体の58.9%を占めているので、他の球種はある程度割り切って捨てる必要があるだろう。
ただ、狙い球を絞ったところで、規格外のボールばかりが投じられる現実は変わりないので、対山本由伸は、いかにして少ないチャンスをモノにし、1点を守り切るかが重要になってくる。
より一層厳しくなる他球団のマークをさらに圧倒的な力で退けることができるのか、最強投手・山本由伸の今季の投球にも期待したい。
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