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沢村賞の中日・大野雄大、さらなる飛躍のカギはスライダーの精度

2021 2/20 06:00占部大輔
中日・大野雄大ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

躍進を支えた正確無比な制球力

昨季、沢村賞に輝いた中日・大野雄大。2年連続となる最優秀防御率を獲得し、現在、セ・リーグで最も点を取られない投手と言っても過言ではないだろう。

他球団からのマークがきつくなる中、大野の躍進を支えたのは「制球力」だった。

防御率が優秀な投手は、球威がある投手、俗に言うパワーピッチャーを連想しやすい。確かに大野も球威がある投手の一人だが、データから制球力の大幅な向上が昨季の躍進につながったことが見えてきた。

大野雄大の2019年と2020年比較


セイバーメトリクスで、2019年と2020年の奪三振と四球に関するデータを比較すると、すべての指標が改善されていた。特に圧巻だったのは、BB/9(与四球率)の1.39。規定投球回をクリアした投手では両リーグトップの数字で、パ・リーグトップのロッテ・石川歩が記録した1.76を大幅に上回る成績となる(セ・リーグ平均は3.30)。

この球界最高の制球力が、K/BB(1奪三振までの与四球数の指標)とK/9(奪三振率)の向上につながったと考えられる。

ヒートマップ(SPAIA参照、https://spaia.jp/baseball/npb/player/1000138)からも、左右の打者に対してアウトコースのストライクゾーンとボールの出し入れを徹底して行ったことがわかる。特に左打者のアウトコース低めには、コースいっぱいにボールが集められており、打者もストライクとボールを見極めるのが非常に困難だったと考えられる。

投球割合50%を超える威力抜群のストレート

大野のストレートの投球割合は、球界トップクラスとも言われており、データでも全体の51.6%はストレートで構成されていることがわかる。

これだけの投球割合だと、打者は目が慣れてしまいそうだが、被打率は.188とほとんど打たれていない。10%を超えていれば優秀とされる空振り奪取率も10.8%を記録し、奪三振の45.3%はストレートによるものだ。

ストレートの被打率が非常に低いのは、大野の代名詞・ツーシームが有効に作用していることが考えられる。

大野のツーシームは、横に曲がるものと落ちるものの2種類があるため、シュートとフォークの計測時に機械が同じ球種として計測している可能性もあるが、2球種の投球割合の合計は全体の33.4%を占め、どちらも空振り奪取率が20%を超えている(シュート21.7%、フォーク21.2%)。

ストレートとツーシームは同じファストボールに分類されるため、そのまま伸びてくるボールか小さく変化するボールかを、打者が見極めることができていないと推測される。その上、コースに決められる制球力があるため、打ち返すことは困難を極める。

唯一打ち込まれたスライダー

ほぼ弱点のない大野だが、さらなる飛躍のカギを握るのは、昨季、被打率.345と打ち込まれてしまったスライダーの精度を改善することではないだろうか。

大野雄大のスライダー被打率比較


2019年は、被打率.230と好成績だったスライダーだが、2020年には大きく成績を落としている。

大野のスライダーは、平均球速が130km/hを超え、どちらかというとファストボールに近い変化球だ。平均球速の近いツーシームは、スライダーと逆方向に変化するためコンビネーションとしての相性も良い。そのため、スライダーの精度を改善することによる効果はかなり大きいだろう。

2年連続の沢村賞に期待がかかる大野。今季もセ・リーグで最も点を取られない投手の圧巻の投球が楽しみだ。

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