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阪神内野陣が12球団最多失策返上へ「川相塾」で補習中

2021 2/17 11:00楊枝秀基
(左から)阪神の北條史也、木浪聖也、糸原健斗ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

トレードの山本泰寛と新人の中野拓夢が加入

無観客とあってスタンドは静かそのもの。それでも、キャンプ序盤から阪神の内野陣に活気があるように見えたのは気のせいだろうか。僅かな変化かもしれない。ただ、ひと匙の調味料が料理の味を大きく変えることもある。そんな思いで沖縄・宜野座キャンプを見守っていた。

変化をもたらすであろうと感じさせた一つの要因は、巨人から金銭トレードで移籍の山本泰寛内野手(27)とドラフト6位ルーキーの中野拓夢内野手(24=三菱自動車岡崎)の存在だ。

キャンプ初日の二遊間には小幡竜平、北條史也、木浪聖也、糸原健斗に加え上記の2選手が入っていたわけだが、これまでとは違った雰囲気が感じられた。首脳陣も競争心を煽ろうと一軍キャンプメンバーを編成したに違いない。

山本は15年ドラフト5位で慶大から巨人入り。二塁、遊撃、三塁の内野を全て守れる守備力が売りの選手だ。昨季こそ一軍出場機会がなかったものの、19年には92試合で打率.232、2本塁打、10打点。優勝チームで守備固めとして起用されていたとあって、ディフェンス面では戦力アップが期待できる。

中野は日大山形から東北福祉大、三菱自動車岡崎を経てプロ入り。元々、守備力に関しては定評があり、アマ球界で着実に実力を伸ばしてきた。昨年は無失策を誇り、社会人ナンバーワンショートとして評価されていた。

意地悪な見方をすれば、他球団でレギュラーでなかった内野手とルーキーが加入したに過ぎない。それだけでチームの守備力が即、アップするとは限らないだろう。それでも2人の加入により内野陣がいい意味で刺激し合い、雰囲気が変わっているのはネット越しに伝わってきた。

昨季はマルテ、ボーアで計15失策だった一塁にも、これまでは遊撃、三塁を守ることが多かった北條が練習を行うなど現状打破を目論む姿勢は明らかだ。

精力的に指導する川相昌弘臨時コーチ

ここに加え強力なスパイスとなり得るのは元巨人、中日で活躍した川相昌弘臨時コーチ(56)の存在だ。世界記録の533犠打や遊撃手として6度のゴールデングラブ賞を誇る名手が、キャンプ初日から虎を救済するため宜野座に降臨したのだ。

指導にあたる以前から虎戦士の動画をしっかりチェック。個々の個性や課題を把握した状態でキャンプ地入りした。 キャンプ初日はしっかり観察するところから始まり、2日目以降は積極的にアドバイス。細かいポイントをしっかり抑えた「川相塾」に矢野監督も「自分たちが期待していた以上に精力的に指導していただけている。これをしっかり結果に繋げていかないといけない」と感謝しきりだ。

言うまでもなく、阪神の大きな課題の一つは守備。現在、3シーズン連続で12球団ワーストの失策数を記録している。2018年の「89」から19年「102」ときて昨季は120試合の変則シーズンにもかかわらず85失策。優勝した巨人の「43」と比べればほぼ倍の数字となる。これを改善しない限り巨人との差も埋まらない。

某球団スコアラーは「阪神に限らずチームの弱点を解消したい場合には、トレードや新人、外国人の補強などでメンバー自体を入れ替えるか、指導者を変えるという方法がある。そんなときに阪神は守備力強化を謳いながら、守備面では他球団の控え選手の獲得とドラフト下位での内野手の補強くらいしかしなかった。コーチも入れ替えず久慈コーチにバント担当、筒井コーチに分析担当と責任を増やしましたよね。でも、川相さんをキャンプに呼ぶと聞いて『なるほど』と思わされましたね」と話す。

久慈コーチらのコーチングも

元々、投手力は強い阪神。昨季のチーム防御率は3.35で巨人に次いで2位だった。せっかく点をやらない投手陣がいるなら堅い野球を実践することは必要不可欠。川相臨時コーチの教えをしっかりモノにし守備率、犠打の成功率を伸ばせば勝率も大きく飛躍する可能性はある。

「失敗はしていいんよ」と話す矢野監督の下、阪神の宜野座キャンプは進行中。すでに紅白戦も始まっており、若手は積極的なミスから試合後に「川相塾」で補習というパターンでレベルアップを積み重ねている。

川相臨時コーチも「担当コーチの方々にも一緒に練習を見てもらうことによって、この期間だけではなく継続して課題に取り組んでいってもらえると思う」と、コーチのコーチングも行いチームを越えた技術の継承に積極的だ。

結果は終わってみなければわからない。ただ、昨年までとは違い化学変化の兆しを感じる。「川相流スモールベースボール」というスパイスでチーム力を底上げし、念願のリーグ優勝奪還へ足掛かりを作ることができるか。今後、さらに本格化していく3年目矢野阪神の戦いぶりを見逃すわけにはいかない。

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