ドラフト下位でも即一軍で活躍する理由
昨年12月に野球評論家の江本孟紀氏と里崎智也氏の共著となる『野球の超正論』(徳間書店)が上梓された。2020年のプロ野球を振り返りつつ、ドラフトやFA 、ポスティング、さらには今季の展望についても一部触れている。
今年の春季キャンプでは、注目のルーキーが躍動している。阪神の佐藤輝明(近大)、楽天の早川隆久(早大)らドラフト1位の選手が活躍の兆しを見せるのは指名順位からいって当然と言えば当然のように思えるが、巨人の秋広優人の注目度が日増しに高まっている。
秋広は二松学舎大附高からドラフト5位で指名されたが、大谷翔平を思わせるようなバッティングフォームに加え、左右に打ち分ける柔らかいバッティング技術は、首脳陣の評価のみならず、ファンからの期待も高い。ドラフトで下位指名されて、高校をまだ卒業していない選手が、2月からの一軍キャンプに抜擢された。それだけでもワクワクしてしまう野球ファンは大いに違いない。
だが、このようなことは決して珍しいことではないと、里崎氏は本書のなかでも述べている。
「そもそもドラフトとは、アマチュア時代の通信簿の評価が高かった選手が指名されるわけであって、NPBに入るために受けた就職試験の結果のようなものです。これって、一般企業にも当てはまることなんです。いの一番に獲った人材が、即戦力になってくれるとは限らない。最後におまけでとったような人材が実はものすごく優秀で、将来の会社の看板を背負う人材へとなっていく。こんなことは珍しいことではないのです」
さらに江本氏も続ける。
「巨人では菅野智之に次ぐ柱として期待されている戸郷翔征も、18年のドラフト6位で入団した。でもプロの世界は入ってしまえば結果が全て。1位も6位も関係ない。プロに入ってしまえばすべて横一線の能力評価なんですよ」
ドラフト1位で獲得したからといって、必ずしも成功するわけではない。それは過去のドラフトの結果からも明らかになっている。
「よくファンの方は、アマチュア時代に人気のあった選手、あるいはお目当ての選手が、自分が応援しているチームが獲得したことで大喜びしていますけど、喜ぶのは活躍してからにしたほうがいいんです」(里崎氏)
あえてスポーツマスコミに苦言を呈す
さらに2人は今のメディアの報道についても苦言を呈し、あえて「スポーツマスコミから嫌われる勇気」についても述べている。
「どんな意見にも賛否両論はあってしかるべきなのに、なぜかメディアで記事を書く人は、世論の動きを読んで賛成の意見や、最大公約数的な話に落ち着くような方向に行ってしまう。そうした動きに反目するような人がいれば、鬼の首をとったかのごとく、わめき散らす人もいます。メディアがこんな調子では、スポーツジャーナリズムというものは成熟していかないんじゃないかって気がするんです」(里崎氏)
そうしたなかで、高校時代に160キロのストレートを投げて、鳴り物入りでロッテに入団した佐々木朗希投手についても、江本氏はこんな疑問を投げかけている。
「実力不足ということで、二軍で投げながら技術を磨いているというのなら、まだ話は理解できる。でも20年シーズンは二軍の試合ですら、1試合、1イニングも投げなかった。高校時代にいくら160キロを投げたと言っても、実際の試合で使えないんじゃ、プロの世界では通用しないですよ」
これには里崎氏も賛同する。
「彼は甲子園を懸けた決勝戦での登板を回避した。このときは『金の卵を守る最大の方策だった』と美談として取り上げられましたが、その後プロに入ってもまともに投げられないようでは、たんに過保護なだけだったと受け止められても仕方がありません。高校までは、『球数制限をしたからこそ、佐々木のようなピッチャーを輩出することができた』と評価されても、いざプロの世界に入ってまったく通用しないというのであれば、『球数制限って本当に必要な措置だったの?』って思うことがあるのは当然かもしれません」
さらに話はメディア側の話に戻る。
「スポーツライターと呼ばれるような人は、プロ野球の世界にいた人間ではありません。彼らが「球数制限は悪だ」と言ったところで、説得力が足りない。自分の主張や信ぴょう性を高めるために、僕たちプロ野球経験者のコメントをつけ足しているだけなんです」(里崎氏)
「オレの周りにいるスポーツ紙の記者もそうなんだけど、球数制限について聞きに来た者は1人もいない。そういう問い合わせがあれば、どんどん話す用意はあるんですけどね。これ読んで気になった記者やスポーツライターは、今からでもいいから遠慮なく聞きに来なさい」(江本氏)
このほかにも「コロナ禍におけるプロ野球」「トレードがプロ野球を面白くする」など、昨年のプロ野球の結果を振り返りつつ、今季はどんな展開が期待できるかについても分析している。プロ野球ファンにとっては示唆の得る1冊となっている。
Ⓒ徳間書店
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