北條が光星学院の先輩に「弟子入り」
巨人、阪神は永遠のライバル関係にある。世間のイメージとしてこの印象は間違ってはいないだろう。
ただ、スポーツ紙の巨人担当と阪神担当を両方とも経験した人間としては、双方のテンションの差を知ってはいるつもりだ。実は阪神が巨人を意識しているほど、巨人は阪神を意識してはいない。言いたいことがある人は山ほどいるだろう。それでも、これは現場を取材する記者が肌で感じた事実だ。
過去の歴史からも巨人の選手と阪神の選手がオフの自主トレを共にすることは珍しい。昭和の阪神をけん引した“ナニワの春団治”こと川藤幸三OB会長が聞けば「GT合同自主トレやと?ワシらの頃はそんなもんあるわきゃないじゃろうが」と怒られそうなお話だ。
しかし、現実にはこのオフにGT合同自主トレが行われた。それは巨人・坂本勇人内野手(32)と阪神・北條史也内野手(26)の間で実現。2人は青森・光星学院高校野球部の先輩後輩という間柄もあって成立した。
レギュラー奪取へ現状打破を目論む北條サイドから弟子入り志願。9年目を迎え正念場の後輩に、昨季史上2番目の若さで2000安打を達成した先輩が門戸を開いた形だ。
6時間のトレーニングに食事管理も徹底
器が違う。それは誰もが認めるところだろう。坂本は今や球界の盟主・巨人のチームリーダーであり、精神的支柱。32歳で名球会入りを達成した若き球界のレジェンドだ。高校出身でプロ入りした遊撃手という共通点はあるが、名実ともに段違いだと言っていい。
「ここ何年も成績を残せていないので、もう一回レベルアップしたいという気持ちがあった。何か環境を変えたいなという思いで、お願いさせてもらいました」
北條の気持ちは切実だ。これまで5年連続でヤクルト・山田哲人らとの合同自主トレに参加してきたが、心機一転。勇気を出して高校の先輩に頭を下げることで、ブレークのきっかけを掴もうと決意した。
坂本の自主トレは超ハードで有名だ。若手時代は阿部慎之助(二軍監督)と合同自主トレを行っており、巨人のリーダー像を継承。自らが中心となって行っている自主トレでは、6時間にも及ぶ休憩なしのトレーニングに加え、練習に臨む心構えや食事管理なども徹底して自らを律するという。
背番号2から26に変更して再出発
今回の自主トレに参加した北條は「全てを吸収したいです」と意識の高い練習に充実のコメントを残している。打撃面では投球に対してのバットの入射角など細かい助言をもらった。守備では全ての基本であるキャッチボールへの注力に驚愕した。
今季、北條は入団以来背負ってきた背番号「2」を梅野に明け渡し、「26」に変更することも決めた。わずか40試合、打率1割9分2厘、2本塁打、7打点に終わった昨季から、大きく流れを変えるためにも目の色を変えている。坂本との自主トレを含め「すべてがいい方向に向くように」と前向きだ。
坂本は「バッティングも守備の面でも、すごくくすぶっている」と焦る後輩の現状を分析。「敵チームの選手ですけど、一緒に高め合っていければいい」と惜しげもなく、自らのエッセンスを後輩に注入した。実力差が大きいからこその余裕の言葉とも取れるが、球界を代表する選手として懐の深さがうかがえる。
かつては小笠原道大と平野恵一も「GTタッグ」
坂本、北條の師弟コンビの様子を見ていると、かつて巨人と阪神で立場を越えた師弟関係があったことを思い出した。それは巨人OBで「ガッツ」の愛称で親しまれた小笠原道大(日本ハムヘッドコーチ)と、小柄ながら闘志あふれるプレーが印象的だった阪神・平野恵一(二軍打撃コーチ)だ。
平野がオリックス時代、初の球宴出場を果たした2005年のことだった。同じ左打者で技術の高い日本ハム・小笠原から、少しでも何かを盗もうと隣に着席。そこでの会話はそんなに多くはなかったが、平野の心意気が小笠原に伝わった。そのオフから合同での自主トレが実現した。
そこからも良好な関係を継続。小笠原が2007年にFA移籍を果たして巨人の主砲となり、平野が2008年からトレードで阪神に移籍しても師弟関係は崩れなかった。ここでもGT合同自主トレが成立。2010年に小笠原は5年連続3割30本を達成すると、平野は自己最高の打率3割5分、172安打を記録するなどお互いを高め合った。
かつてガッツ師匠の男気に平野が応えたGT合同自主トレ。時代は流れ、今年は高校野球名門校OB同士の師弟GTコンビが一緒に汗を流した。
なんといっても大切なのはシーズン本番。阪神・北條がレギュラーを奪取し先輩に恩返しできるのか。巨人・坂本が格の違いを見せつけてチームをリーグ3連覇に導くのか。2020年、阪神からみてチーム成績は8勝16敗で9年連続の負け越し。巨人にもっと阪神を意識させるためにも、北條の覚醒が求められそうだ。
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