打者に向かっていく強い気持ち
二木康太、種市篤暉、岩下大輝ら高卒投手が頭角を現しているロッテ。佐々木朗希も含め近い将来が楽しみな投手陣に、また一人魅力的な逸材が加わる。甲子園で2年春・夏連続4強に進出した明石商の中森俊介だ。
12月9日に行われた新入団選手発表会では、「1年目から15勝」「チームを日本一へ」「(叶えたい夢は)160km」と高い目標を口にするなど意気込みを見せた。
8月に開催された「甲子園高校野球交流試合」での桐生第一との試合では、9回を投げて5安打9奪三振2失点の完投勝利。3回に150kmをマーク(自己最速は151km)するなど序盤から中盤にかけて抑え込むも、後半はスタミナ切れからピンチを招き1点差まで迫られた。それでも、要所で見せた強気の投球には目を見張るものがあった。
特筆すべきは2-1と1点リードで迎えた8回表。2死一、二塁と一打逆転のピンチを招き、打者は3番の廣瀬智也。それまで2打席連続で死球を与えていた相手に対し、臆することなくインコースに直球を投げ込み空振り三振を奪った。
「打者に向かっていく強い気持ちが持ち味なので、そこを見ていただきたい」
新入団選手発表会で自身のストロングポイントについてそうアピールしていたが、まさに強気の投球、マウンド度胸の良さが功を奏したシーンだった。
要所で見せる巧みな投球術
世代でナンバーワンとも言われる中森は、最速151kmの直球に加え、変化球の精度の高さが魅力。スライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップと持ち球が多彩で、どの球種でも空振りを奪える。特にチェンジアップは一級品。キレ味も制球も良く、直球と腕の振りがほとんど変わらない。プロの打者を相手にどれくらい通用するのかが楽しみだ。
その一方、課題は明白。体力のある序盤は低めに伸びのある直球がよく決まるが、球数が増えて足腰の粘りがなくなると体の開きが早くなり、右の肩・肘が下がってボールが高めに抜ける。桐生第一戦での後半の投球にもそうした傾向が散見されたが、それでも要所では強気な内角攻めや外角の出し入れなど投球術の上手さを見せ、ピンチを切り抜けた。
先発投手は、1イニングでも長く質の高い球を投げ続けられることが理想。今後、筋力・持久力の強化によって先発投手として必要不可欠なスタミナを身につけていけば、まだまだ化ける可能性を秘めている。
1年目は体づくりに重点
高卒投手の成長が著しいロッテだが、近年の高卒の先発投手はどんなステップを踏んできたのか。
2013年ドラフト6位の二木康太(鹿児島情報高)の場合、1年目はファームで2試合に登板。1軍初登板となった2年目10月の日本ハム戦で5回1失点の好投で足がかりをつかみ、3年目には7勝(9敗)を挙げた。
2014年ドラフト3位の岩下大輝(星稜高)は1年目のオフに右肘、3年目のオフに腰を手術したこともあり、1軍の初登板は4年目の7月。ソフトバンク戦にリリーフで登板し1回1失点(自責は0)も、最速147kmの力強い球で堂々たる投げっぷりを見せた。その後、10月に登板した楽天戦で6回無失点でプロ初勝利を挙げると、5年目には5勝(3敗)をマークし、先発投手としての存在感を示した。
2016年ドラフト6位の種市篤暉(八戸工大一高)は、1年目は1軍での登板がなく、2軍でも登板したのはわずか1試合。2年目の8月、オリックス戦で1軍初登板を果たすと6回2失点の好投を見せ、9月の日本ハム戦でも5回無失点の好投。同シーズンは7試合に先発したものの勝ち星は挙げられなかったが(0勝4敗)、ソフトバンク戦ではプロ初の二桁奪三振をマークするなど大器の片鱗を見せた。3年目はプロ初勝利を含むチーム最多の8勝(2敗)を挙げ、一躍エース候補に躍り出た。
2018年ドラフト6位の古谷拓郎(習志野高)は、2年目の10月にソフトバンクとの首位攻防戦で1軍初登板。3回から2番手でマウンドに上がると、3回を投げて3安打1失点。4四球を与え、71球を要するなど制球に苦しんだが、セットポジションでも力のある球を投じるなど5つの三振を奪った。この1軍での経験を糧に、来季は飛躍が期待される。
岩下は度重なる故障で1軍デビューが遅れたが、二木、種市、古谷が1軍登板を果たしたのは2年目のシーズン終盤。中森は1年目から15勝という目標を持っているが、佐々木朗希の例も含め、少なくとも1年目は体づくりに重点を置くことになるだろう。
常勝軍団形成のための礎に
中森への期待値が高い要因のひとつに、甲子園という大舞台で結果を出してきたことが挙げられる(通算6勝)。高校生離れしたクレバーな投球術や低めに集められる制球力、負けん気の強さ、多彩な球種を投げ分ける器用さなど、先発投手に望まれる資質を兼ね備えている。さらに、大舞台で活躍できるスター性をも持ちあわせていることも頼もしい。
甲子園で輝かしい成績を残した藤原恭大が、今シーズン後半の優勝を争う試合やCSの大舞台で活躍。2本の先頭打者本塁打や試合を決める逆転弾、甲斐拓也から盗塁を決めるなど走攻守で輝きを放ち、そのスター性を改めて見せつけたことも記憶に新しい。
また、現在いる高卒投手とタイプが異なることもメリット。二木、種市、岩下はフォークを主な武器とし、時折スライダーを織り交ぜながら投球を組み立てるが、中森は多彩な球種を駆使し色々なパターンで勝負できる。投球スタイルが違うという点は、先発ローテーションの陣容を形成する際にもプラスに作用するはずだ。
中森が総合力の高い投手であることに疑いの余地はないが、優れた能力を活かすにもまずは基礎体力。現状の課題を克服しプロで戦えるフィジカルが整えば、より高いパフォーマンスを発揮できるだろう。伸びしろも十分。先発投手としての地位を築き始めたほかの高卒投手や佐々木朗希らとともに切磋琢磨し、ロッテが常勝軍団へ変貌していくための礎になってほしい。
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