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藤川球児がセーブ数よりこだわった通算防御率、実は歴代5位相当

2020 12/9 06:00楊枝秀基
引退した藤川球児ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

「トータルの数字で評価してほしい」

自分の歩いてきた道を振り返ってもスタート地点は遥か彼方。それほどに長く険しく起伏のある野球人生だった。22年の現役生活、最後の登板となったのは11月10日の巨人戦(甲子園)。プロ野球選手・藤川球児(40)が踏み固めてきた道の終点を、自らの意思で決めた。

日米通算で811試合、61勝39敗245セーブ164ホールド、15955球。並べてみると実に壮観だ。野球人として藤川はもちろんチームの勝利、リーグ優勝、日本一を最優先にしてきた。その結果として残るものが個人成績だと考えていたことは間違いない。

ただ、こだわっていた数字も存在するのは確かだ。それは投手として端的に1試合、9イニング投げればどれくらい点を取られるかという確率の数値。防御率なのだが、あるキーワードが条件として付く。それは「トータルで」という言葉だ。

現役晩年、藤川は2軍調整中の鳴尾浜球場で私にこんな話をしたことがある。

「あの頃、あの試合、あの場面で誰を三振に取ったボールはすごかったとか、あの時は打たれてしまったなとか、みなさんそれぞれに僕を見ていた時代や瞬間で印象があると思うんですよ。僕自身はずっと僕なので、それらを全て自分の経験として持ち続けている。そこで、こうして昔から取材してくれている人には特に、僕がプロ野球を上がる(引退する)ときにトータルの数字で僕というピッチャーを評価、判断して欲しいんですよ」

スタルヒンを上回る通算防御率2.078

藤川は2019年9月29日の中日戦で3失点(3自責)を喫する前までは、NPBでの通算防御率が1.995だった。最終的に現役通算では2.078と2点台を切ることはできなかったが、この数字に関しては名球会入りの250セーブよりも拘っていた。

NPBホームページに掲載されている2000投球回以上の通算防御率ランキングでは、1位が藤本英雄の1.90で、スタルヒンの2.088を上回る藤川は歴代5位に相当する。イニング数が足りていないため一概には比較できないものの、プロ野球史上でも屈指の好成績を収めているのだ。

今となっては250セーブも防御率1点台も「そんなことはどうでもいい」と笑っているだろうが、モチベーションを高めてきた大事な数字だったはずだ。

国際試合でも通算防御率0.66

トータルでいえば国際試合での評価に関しても気にしていた印象がある。阪神・藤川としては絶対的守護神として球界を代表するクローザーとして認められていた。もちろん、その評価で日本代表にも招集されている。

ただ、ファンの間では藤川は国際球に適応できず、日本のマウンドと同様の「火の玉ストレート」を投げられていただろうか、という印象も強いことも確か。NPBのシーズン中とは違い、国際試合ではやや不安定な投球になっていたのではないかという見方も多かった。

実際、2006年のWBCでは第2ラウンドの米国戦で同点の九回から登板し、1失点で敗戦投手になっている。失策をきっかけに1死満塁のピンチを背負い、次打者のケン・グリフィーJr.を空振り三振。だが、続くアレックス・ロドリゲスにバットを折りながらも中前適時打され、サヨナラ勝利を献上してしまった。

しかし、藤川は国際試合での相性の悪さというイメージも「そんなことないよ」と一蹴した。ここでも口をついたのは「トータル」という言葉だった。

「アメリカ戦での失点もエラーからなので自責ではない。投手の能力を示す数字の防御率で客観的に判断してもらいたいですね。国際試合での僕の数字のトータルも見てみてください」とキッパリ言い放った。

藤川は2007年に台湾で行われた北京五輪の予選、2008年の五輪本戦に出場した。予選では1試合、本戦で4試合に登板し5イニングを1自責で防御率は1.80。さらに、WBCでは2006年、2009年の2大会に出場し連覇に貢献。合計8試合、6回2/3を投げて自責0の防御率0.00と結果を残している。

実際、国際試合の公式戦では通算15試合、13回2/3を投げ1自責、19奪三振で防御率は0.66と堂々の数字だ。求める側の期待値が高すぎ、肝心な事実を見失っていたと言われても認めざるを得ない。

巨人と阪神で唯一、長期間クローザー

期待通りに直球待ちの大リーガーをストレートでバッタバッタと三振に打ち取る。そんな場面を目撃したいのはファン心理というものだ。だが、防御率0点台の投手にこれ以上を求めるのは酷な話だろう。

「印象ではなく数字を評価して欲しい」。そう話していた球児の言葉に、熱狂的な虎党の期待に応え続けてきた男の矜持を感じ取れた。

今となっては重圧から解放され、タレント、評論家として精力的に活動する藤川。自身のツイッターも開設し、プライベートショットなどを披露している。これまでは野球に全てを尽くしてきたとあって、家族とアットホームに接する場面を感じさせる投稿などは非常に新鮮に映る。

反論はあるかもしれないが、巨人や阪神のような注目球団で守護神を長年にわたって務める労力は尋常ではない。150セーブ以上を挙げた投手は過去に15人いるが巨人、阪神で長期間守護神として活躍した投手は藤川しか見当たらない。そういう意味でも引退した解放感は、常人には想像も及ばない。

もちろん巨人と阪神ばかりが野球ではない。ただ、阪神OBたちは巨人戦で闘志を燃やし、その伝統を繋いできた。藤川もその伝統を引き継ぐ担い手で、若手投手にそのマインドを注入してきた一人だ。

引退直後で申し訳ないが、藤川には今後の阪神にも積極的に関わってほしい。22年間お疲れ様でしたの直後だが、これからもよろしくお願いします。そして最後に、藤川球児投手は担当記者の目から見て、数字をトータルで見て「本当に素晴らしい投手だった」と記しておく。

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