規定投球回到達かつ無死球という記録
11月25日、ソフトバンクが巨人との日本シリーズを4連勝で制し、2020年シーズンのプロ野球が幕を閉じた。コロナ禍の影響で開幕が遅れるなど、選手たちにとっても調整は困難を極めたが、多くの選手たちが素晴らしいパフォーマンスを発揮した。
特に際立った成績を残したのが、中日のエース・大野雄大だ。今季は多くの項目でキャリアハイの成績を残し、先発完投型の投手に贈られる沢村賞を受賞した。完投数や勝利数などが選考基準となっている同賞だが、大野はこの選考基準以外の項目でも驚きの数字を残していた。なんと、今シーズン1つも死球を出していなかったのだ。
今シーズン、規定投球回をクリアした投手はセ・リーグ6人、パ・リーグ8人の計14人。当然大野もクリアしており、ロッテの美馬学、広島の九里亜蓮も同じく死球0で今シーズンを終えている。これは異例の多さと言え、同じように規定投球回をクリアし死球0の投手は2013年の三嶋一輝(DeNA)、能見篤史(阪神)以降出ていない。2011年からの10年間で見てもこの5人だけなのだ。
大野雄大が達成した、史上3人目の偉業とは
規定投球回到達かつ無死球という記録はそれだけ難しく、大野の場合はさらに沢村賞をも受賞している。では、歴代の沢村賞投手でこの記録を達成した投手はいるのだろうか。調べてみると、過去に2人だけ達成していた。
1人目は1994年の山本昌(当時は山本昌広)だ。沢村賞設立から48年目にして初の記録だった。2人目が2005年の杉内俊哉で、3人目が大野となる。3人とも左腕という共通点があるが、これは偶然ではないのかもしれない。左腕投手という希少性が、打者にぶつけるほど厳しい内角攻めをしなくても良い要因の一つになっているのではないだろうか。
ただし、往年の沢村賞投手たちが死球を乱発していたということでは決してない。今とは比べ物にならないような投球回を投げていた時代もあり、もはや誤差の範囲と言えるような数字も見受けられる。
実際に、1956年には金田正一(国鉄)が367.1回で2死球、1961年には権藤博が429.1回で3死球と、凄まじい記録を残している。ちなみに最多は1979年の小林繁(阪神)で、273.2回で15死球を記録している。
徹底した外角攻めでキャリアハイとも言える成績をマークした大野
年々、投手を取り巻く環境は厳しくなっているという。打撃マシンなどの普及による打撃技術の向上、防具の性能の向上などにより、打者はより踏み込みやすくなっている。その一方で投手も技術を磨き、体力を強化することで対抗してきたわけだが、道具の向上は打者と比べると少ない。
そんな中、重要性を増すのが内角攻めだ。時として危険すら伴う行為ではあるが、プロの強打者たちを抑え込むには必須のスキルと言える。その「内角攻め」を極端にせず、プロの強打者たちを抑えたのが今季の大野だった。
今シーズンの大野の投球ゾーン別データ(※1)を見ると、徹底して外角に投げ込んでいることがわかる。対右打者では外角高めに15.8%、外角ベルトに15%、外角低めに至っては25.8%を投じていた。対左打者においても、外角高め・ベルトは10%ほどだが、外角低めは29.1%となっている。その一方で内角への投球割合は極端に低く、いかに外角中心で攻めているかを証明している。
さらに、投球割合を見ていくと、投球全体の52%を平均146キロのストレートが占めている。次いで135キロのシュートが21%、131キロのスライダーが15%、137キロのフォークが12%となっている。緩急差はあまりないようだが、3種の変化球の球速帯が近いのも、打者を惑わすのに一役買っていると言えるだろう。
ここで大野と沢村賞のタイトルを争った菅野智之(巨人・今季7死球)の投球を見てみると(※2)、対右打者においては大野同様(もしくはそれ以上に)外角攻めを徹底しているが、対左打者においては内角にも積極的に投げ込んでいるようだ。今季の両投手の成績は遜色ないものだったが、対左打者においては特に攻め方が変わっていた。この辺りにも、左対左の優位性が関わっているのかもしれない。
今シーズンの大野はストレート中心の組み立てで、外角攻めを徹底。無死球で規定投球回をクリアし、かつずば抜けた投球内容で沢村賞を受賞した。山本昌、杉内の投球内容についてまでは確認できないが、この偉業を達成した投手がいずれも左腕ということが非常に興味深い。次にこの偉業を達成するのはやはり左腕なのか、はたまた史上初の右腕となるのか。楽しみに待ちたい。
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※1今季の大野の投球ゾーン別データ
※2今季の菅野の投球ゾーン別データ