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中日・根尾、広島・小園、オリックス・太田らは「高卒遊撃手」受難の時代を覆せるか

2020 10/3 11:00青木スラッガー
中日ドラゴンズの根尾昂ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

球界にひしめく20歳前後の遊撃手有望株

遊撃手は野球の花形ポジションである。重要なポジションゆえ経験の浅い選手が簡単に守れる場所ではないが、今の球界には遊撃手としてスケールの大きい20歳前後のプロスペクトが豊富だ。

知名度が一番高いのは2018年ドラフトで4球団競合の末、中日が当たりクジを引いた根尾昂だろう。よく比較された立浪和義のように1年目から一軍で活躍とはならなかったものの、ファームでは着実に成績を伸ばし順調にステップアップしてきている。

このドラフトで根尾と同じく4球団競合指名を受け、広島に入団したのが小園海斗だ。今季はまだ一軍出場がないが、昨季は1年目でいきなり4本塁打を放ち、俊足強打の遊撃手として強烈な印象を残した。

さらにもうひとり、18年ドラフトで1位指名を受けた高卒遊撃手がオリックスの太田椋である。今季は徐々に一軍でスタメンの機会を増やし、わずか20試合で3本塁打と売り出し中だ。

阪神2位の小幡竜平も後半戦は一軍でスタメン出場のチャンスを得ている。さらに広島7位指名の羽月隆太郎、オリックス5位指名の宜保翔、1つ下の学年でもヤクルト6位指名の武岡龍世と、下位指名の面々も徐々に一軍に出てきた。まだ一軍出場はないが、2019年ドラフトでDeNAに1位指名された森敬斗も身体能力抜群で打撃も期待される次世代の正遊撃手候補である。

これだけ同世代に遊撃手のホープが集結し、早くから一軍に顔を出してきているのは稀な状況ではないだろうか。

遊撃手の主流は大卒・社会人出身?

現在のナンバーワン遊撃手といえば、攻守に抜群の実績を残している巨人・坂本勇人で間違いないだろう。高卒2年目で正遊撃手を掴み、そこからポジションを守り続けて早くも2000本安打に到達しようとしている。

ただ、各球団の遊撃手事情を確認してみると、坂本以外は即戦力で入ってきた大学・社会人出身選手たちの活躍が目立つ。

2017年にセ・パでそれぞれ新人賞に選出された社会人出身の西武・源田壮亮と大卒の中日・京田陽太は、このルーキーイヤー以来、圧倒的な守備力で正遊撃手の座を守り続けている。その他の球団における主力クラスを見ても、広島・田中広輔、ロッテ・藤岡裕大、オリックス・安達了一は社会人出身。ヤクルト・西浦直亨と楽天・茂木栄五郎は大卒である。

阪神・木浪聖也も社会人出身で、1年目から遊撃手としてチーム最多の98試合に出場。2年目の今季もコロナウイルス集団感染の件(濃厚接触者と認定されチームを離脱した)まで、遊撃スタメンの座をほぼ不動のものにしていた。楽天のドラフト1位ルーキー・小深田大翔も社会人出身で、シーズン途中からは遊撃スタメンを勝ち取っている。

大学か社会人野球で体を作り経験も積んだ遊撃手が、プロ入り後すぐに既存の遊撃手候補から定位置を奪ってしまうケースが非常に多いのだ。

ドラフト時の青写真通りにはいかない高卒遊撃手

坂本のほかに高卒遊撃手でレギュラークラスの実力がある選手といえば、ソフトバンク・今宮健太、日本ハム・中島卓也、DeNA・大和といったところになる。

遊撃手でレギュラーになった時期としては、今宮が3年目の2012年、中島は7年目の2015年あたり。遊撃手としてはやや時間がかかった中島も、内野のユーティリティとしては5年目からスタメンを張っていた。2年目でレギュラーを獲った坂本を含め、この3人は順調にレギュラーをつかんだ例といえるだろう。

大和は阪神時代、遊撃のレギュラーに鳥谷敬がいたため、主に二塁や中堅を守り、遊撃手としての出場はほとんどない。FA権を取得し、移籍したDeNAでプロ13年目にして正遊撃手の座を掴んだ。

現役の高卒遊撃手としては中日・堂上直倫もいるが、彼が初めてシーズン通してスタメン出場したのは、プロ10年目の2016年と遅かった。その定位置も1年でルーキーの京田に奪われてしまった。

高卒遊撃手のプロ入り後の経緯を振り返ると、ドラフト入団した球団で順調に育ち、若いうちに正遊撃手を掴んだケースは、2015年の中島が最後といえる。高卒の遊撃手が、なかなかドラフト時の青写真通りにはレギュラーに育たないという状況が生まれつつあるのだ。

”コンバート”ではなく”遊撃手”としてステップアップを

高校時代に「地方では敵なしのスーパー遊撃手」として鳴らしていても、プロに入れば一軍にしろ二軍にしろ、試合で遊撃のポジションにつける選手の数は限られている。一方、大学・社会人野球の進路を選んだ選手たちは、遊撃手として試合に出られる可能性は高く、みっちり経験を積むことができる。

遊撃手は打球処理に高い身体能力が求められる一方で、複雑な連携の中心でもある難しいポジション。試合の中でしか培われない要素が大きく、レギュラーとして試合に出続けやすいアマチュア野球の方が成熟までの時間が短いということなのかもしれない。

もちろん、遊撃手失格の烙印を押されてしまうことが必ずしも悪いことだとは限らない。広島の鈴木誠也や日本ハムの大田泰示、DeNAの梶谷隆幸など、遊撃手から外野手へコンバートして成功した例もたくさんある。

しかし、そうやって打力のある選手をコンバートしていった結果、多くの球団が遊撃手の打力不足に悩んでいることは事実である。やはり攻守に高いポテンシャルを持つ若い選手たちには、”遊撃手”としてステップアップしてくれることを一番に願いたい。

はたして、根尾や小園ら期待の若手遊撃手たちは高卒遊撃手に受難が続く状況を覆し、レギュラーをつかむことができるだろうか。数年後、各球団のショートストップは誰が務めているのか、答えが出るのを楽しみにしたい。

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