美馬が投げると打線が活発に
89試合を消化し、49勝38敗2分け。首位のソフトバンクと1ゲーム差で2位につけるロッテ。その躍進を支えているのが、先発ローテーションの柱としてリーグ2位の8勝(2敗)を挙げている美馬学だ。
シーズン序盤は波に乗れなかったものの、8月以降は破竹の6連勝。美馬が白星を伸ばし始めるとチームも上昇気流に乗った。防御率は4.66と決して良い数字でないが、援護率はリーグトップの6.97。美馬が投げる試合は打線が活発になる。
9月27日のソフトバンク戦でも初回から打線が爆発。一死満塁の好機で井上晴哉が適時二塁打を放つと、続く福田秀平も適時打を放ち一挙4点。2回にも井上、福田が適時打を放ち、序盤で7-0と大量リードを奪うなど美馬を強力に援護した。
今季7勝目を挙げたオリックス戦の後には、「いつも降板してからすごい打ってもらっていて。何なんですかね、この運の良さは」と野手への感謝を口にしていたが、本当に美馬が投げる時はよく打つ。その要因とは何なのだろうか。
攻撃に良いリズムをもたらす
セイバーメトリクスの指標にFIP(Fielding Independent Pitching)というものがある。これは「守備から独立した投球」を示し、被本塁打、与四死球、奪三振のみで投手を評価する指標だ。ゴロアウトやフライアウト、安打といった野手が関わるプレーが加味されていないことから「投手が持つ本来の能力」を把握でき、守備力などが影響する防御率とは決定的に違う。
美馬のFIPはリーグ3位の3.02だ(80投球回以上の投手が対象)。また、与四球率を表すBB/9は1.97でリーグ3位、9イニングあたりの被本塁打数を表す指標であるHR/9もリーグ3位の0.72と軒並み上位にランクインしている。
無駄な四球を与えれば攻撃のリズムが悪くなり、本塁打を打たれれば試合の流れを変えられてしまうリスクがあるが、美馬は四球が少なく被本塁打も少ない。さらには投球のテンポが良くストライクが先行する。こうした要素が攻撃に良いリズムをもたらしていると考えられる。
9月27日のソフトバンク戦では、序盤に7点を取ってもらったものの4回に3失点。5回にもグラシアルに適時打を打たれて1点を失うも、続く無死一、二塁のピンチに柳田悠岐を空振り三振、中村晃とデスパイネはそれぞれ外野フライに打ち取った。連打を食らいつつも、大怪我をする前になんとか乗り切る粘りの投球が光った。
「フォアボールやデッドボールが絡んで大量失点をしてしまうことは嫌なので、そこだけは意識して投げています」と7勝目を挙げた9月13日のオリックス戦後に語っていたが、悪いなりに試合を作れるのが美馬の真骨頂だ。
「外角」および「低め」への投球を徹底
球種は投球の33.7%を占めるスライダーを中心に、フォーク、ツーシーム、カーブ、チェンジアップと多彩な球種を操る。ただ、ツーシームの被打率.432をはじめ、スライダーは.317、カーブは.385と、フォーク(.237)以外の球種は比較的被打率が高い傾向にある。
絶対的なウイニングショットがあるとは言い難いが、ゾーン別の投球割合と被打率に美馬らしさが表れていた。対右打者でも対左打者でも、とにかく「外角」と「低め」への投球割合が多いのだ。特に右打者の外角低めへの投球割合は32.1%(被打率.205)を占め、左打者に対しても外角低めは17.8%(被打率.286)、外角中程は16.8%(被打率.237)と多い。
一方、右打者の内角中程は5.1%(被打率.400)、真ん中は6.5%(被打率.368)、左打者の内角中程は.5.9%、真ん中は6%(被打率.438)と、リスクの高いゾーンへの投球割合は少なく、「外角」および「低め」への投球を徹底していることがわかる。
打線が不振に陥った際の起爆剤に
リーグ優勝を目指す上で倒さなければいけないソフトバンクに対して、昨季は3勝1敗、防御率1.97、今季も4勝0敗、防御率3.60と、ここまで抜群の相性を見せている。奪三振率9.00も、ほかのチームに対しての奪三振率と比較するとダントツの数字だ。
また、ロッテはZOZOマリンでの試合を多く残しているが、美馬が「好きな球場」と言うように、今季8勝のうち4勝がZOZOマリンとポジティブな数字が並ぶ。
現在チーム打率.243はリーグ5位タイ、370得点はリーグ4位と打撃力に課題を抱えるが、攻撃に良いリズムをもたらす美馬の投球が、今後も打線が不振に陥った際の起爆剤となり得るだろう。美馬が先発ローテーションの柱として引き続き投手陣を牽引していく活躍ができれば、1974年以来となる勝率1位でのリーグ優勝も自ずと近づくはずだ。
※数字は2020年10月2日終了時点
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