NPB史上初の開幕戦初打席初球本塁打
気がつけば9月も半ばに入った。首位争いをしていたことが、遠い昔のように感じられる。
現在のヤクルトは最下位。首位の巨人とは大きくゲーム差が離れておりとても苦しい位置にいる。このままシーズンが終了しようものなら、輝いていた期間がとても短く少し寂しい1年になってしまう。チームに勝利を求めるのはもちろんのこと、もう少し楽しませてほしい。それがファンの願いの1つでもある。
そんな今年のヤクルトと同じような推移を見せている選手がいる。西浦直亨だ。2013年ドラフト2位で法政大からヤクルトへ入団。プロ入り7年目の内野手で、チームの中堅どころ。長いプロ野球の歴史において、後にも先にも西浦だけしか達成していないNPB史上初となる開幕戦初打席初球本塁打で華々しくデビューも飾っており、近い将来、遊撃のレギュラーには当然彼がなっているものだと思っていた。
しかし、あれから6年が経った今年。あのとき思い描いていた未来にはなっていない。
定着しなかった「西青山打線」
衝撃のデビューを飾った西浦だが、1年目の本塁打はその1本だけ。出場も14試合だけで打率.156(32打数5安打)と、開幕戦からは悪い意味で想像もつかないような成績に終わっている。ルーキーイヤーからして、今年のヤクルトのような1年だった。
その後も自身の故障や大引啓次の加入もあり、レギュラーにはなれないシーズンが続く。そして迎えた5年目の2018年、初めて規定打席に到達し2桁本塁打も記録。飛躍を感じさせてくれるシーズンだった。シーズンを通した打率.242(479打数116安打)は決して「いい数字」とは言えないが、燦然と輝いていた期間があった。
交流戦明けとなった6月22日の巨人戦で本塁打を含む4打数4安打と大当たり。翌日の試合でも安打を放つと、6月24日の同じく巨人戦からはこの年初めて1番で起用される。その試合で1安打3打点と結果を残し、その翌日も本塁打を含む3安打3打点と止まらない。
1番西浦、2番青木宣親、3番山田哲人だったことから「西青山打線」とも一部で呼ばれたほど。しかし、この呼び名は定着しなかった。好調期が長く続かなかったからである。
一時は本塁打ランキングのトップへ
今シーズンの西浦も開幕直後は輝いていた。まだ無観客だった6月25日の阪神戦。西浦は藤川球児から代打逆転サヨナラ3点本塁打を放った。エスコバーの加入や村上宗隆の三塁起用もあり、レギュラーから外れた鬱憤を晴らすかのような一撃。
ここから西浦は弾ける。この試合を含め8試合で打率.318(22打数7安打)、5本塁打、12打点と本塁打を量産。この時点での5本塁打はチーム最多だけでなく、セ・リーグでもトップの数字。「ついに覚醒」と思わせんばかりの活躍を魅せた。しかし、その活躍は長く続かず、9月13日終了時点には打率.230(148打数34安打)、7本塁打、22打点に。
成績も落ち着いてきた8月。試合前のノックで、首脳陣の指示なのか自主的なものなのかはわからないが二塁の守備位置につくことも。本格的にボールを受けるというよりは、外野からのカットプレーに参加するような感じだ。
もしかしたら、同じ内野の宮本丈や廣岡大志が外野も含めた複数の守備位置についているように、西浦も(今シーズンここまでは二塁での出場はないが)三塁と遊撃だけでなく他のポジションにも、ということだったのかもしれない。
プロ野球の世界において、正遊撃手候補から他ポジションへのコンバート、あるいは便利屋として起用法が変わっていくことは珍しいことではない。もちろん、有事に備えての練習かもしれない。しかし、打撃面での好調が続けば、二塁に入ることはなかったのではないだろうか。
来シーズンこそ再びレギュラーへ
今シーズン主に遊撃を守っているエスコバーは、ここまで3割近い打率を残している。MLB時代より守備範囲が狭まっているとはいえ、随所に光るプレーを見せている。足の踏ん張りが効かないように見える場面もあるが、送球の強さはやはりメジャーリーガーのそれだ。
しかし、エスコバーは助っ人外国人選手。来シーズン以降の去就は不明であり、今年の12月で34歳になる。残留したとしても若くなく、今シーズン以上の働きを求めるのは酷だろう。そうなるとやはり西浦や廣岡、奥村展征らがレギュラーを張っていかねばならない。二軍では長岡秀樹や武岡龍世といった若手も控えてはいるが、今年1年目のルーキーでありもう少し時間がかかる。
それぞれに魅力はあるのだが、西浦の実績は抜けていて、皆を引っ張るリーダーシップもある。シーズン中に一瞬とはいえ、ファンの脳裏に刻まれるような凄まじい活躍を見せてもくれる。その輝く時間をもっと長くできれば、光り輝く未来、すなわち不動のレギュラーはぐっと近づいてくるはずだ。
レギュラーへの道を切り開くため、迷わず立ち向かう西浦に期待している。話題になるのがデビュー戦とファン感謝デーでの『東京音頭』だけでは、少し寂しい。
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