キャリアハイとなる7本塁打を記録
ヤクルトは8月30日のDeNA戦をもって、ちょうどシーズンの半分に当たる60試合を消化した。チームは序盤こそ好調だったものの、8月に入ってからは大失速。投手陣が打ち込まれる日が続き、あっという間に最下位となった。
そんな浮き沈みがあるなかで、60試合全てに出場している選手がふたりいる。ひとりはいまやチームの大黒柱である村上宗隆。全試合に「4番」としてスタメン出場。守備面での粗さはあるものの、その打撃は高卒3年目にはとても思えない。2年目のジンクスなどどこ吹く風で打ちまくり、現時点で打率ランキングのトップを走っている。ほんとうに末恐ろしい選手だ。
そしてもうひとり。それは、キャプテン青木宣親でもミスタートリプルスリーの山田哲人でもない。移籍組でありながら、生え抜き同様の人気を誇る坂口智隆である。
坂口は60試合中56試合でスタメン起用され、残りの4試合も代打で出場。打率.263(224打数59安打)、7本塁打を記録。この7本塁打はすでにキャリアハイとなっている。また、長打率.411もキャリアで3番目の数字だ。
もう少し紐解いてみる。8月20日に今シーズン3本目の本塁打を放ってから29日までの9試合で5本塁打の固め打ち。本質的に長距離砲ではない選手が、本塁打を放つことで打撃が狂ってしまうこともあるが、坂口に関してはそういった兆候も見られない。その9試合の打率.306(36打数11安打)がそれを物語っている。
内・外野でスタメン起用される頼れる存在
坂口の凄さは突如開眼した長打力だけではない。守備面でも大きな貢献をしてきた。今シーズンは一塁、そして外野の3つのポジションをそれぞれ守っており、内外野の両方でスタメン出場している。
チーム内で外野の3ポジションと一塁を含め、4つのポジションでスタメン起用されているのは坂口ひとり。ポジションを固定できないけれども起用したい、いや、起用しなくてはならない存在ということだろう。
実際、坂口の存在が守備位置の流動性をもたらしているのは明らかだ。スタメンで起用する際はもちろんだが、試合中盤以降に中堅から左翼など外野内での移動や、一塁からグラブを変えて外野に移動することも珍しくはない。代打攻勢のあと、坂口がその他の選手との兼ね合いで、どこの守備につくのかを想像することも楽しみのひとつになる。
ただし、チーム事情で2年前からはじめたばかりの一塁守備はうまいとは言えない。今シーズンも失点につながるミスがあった。それでも経験の浅さを言い訳にすることはない。春季キャンプ時に「へたくそは練習あるのみなので数をこなすしかない」と語っていた。
試合中、投手がサイン交換をしている合間に二塁や本塁への送球をシミュレートしているのだろう。スローイングの動作をやっている光景もよく見かける。決して手を抜くことはないのだ。
1500本安打まで残り33本
今年36歳になり、プロ野球選手としてすでにベテランの域に達していると言ってもいい。だが、「最後にもう一花」というよりも「まだまだ咲き乱れる」といった雰囲気。ベンチはもちろん、ファンにとってもありがたい存在だ。
とはいえ、ベテランの坂口をはじき出すほど勢いがある若手が出てきてほしいという相反する思いもある。未来のチームを考えると、首脳陣だって若い選手の台頭を待ち望んでいるだろう。だが、そういった若手が出てきても、坂口は簡単にポジションを譲ることはなく、壁として立ちはだかってくれるはず。そして、それがチームの活性化にもつながっていく。
33歳にして中学生以来の一塁守備に挑戦することが決まった際は、不満を見せず「チャンスだと思うので必死にやっていきたい」と前向きなコメントを残した。ライバルとしてどんな若手が出現し、どんな役割を言い渡されたとしても、不屈の魂を持って挑んでくれるだろう。
でも、それは今年ではないほうがいい。あと33本に迫った1500本安打、そしてその先にある2000本安打を達成してからでも遅くないはずだ。3学年上の青木があれだけ動けているのだから、まだまだ坂口だって魅せてくれる。そんな期待をしているファンはきっと多い。
※数字は2020年8月30日終了時点
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