Aランクなら旧年俸の0.5倍の金銭補償プラス人的補償
2024年のプロ野球全日程が終了し、FA権を保有している選手の動向が注目されている。今年は新たに取得した大物も多く、宣言するか否かだけでなく、宣言した場合も最後まで情報戦が続きそうだ。
FAの場合、獲得する球団にとってネックとなるのが人的補償。FA宣言選手の年俸によってランク分けされ、従来の規定ではAランクの選手が移籍した場合、移籍先球団は元の所属球団に対して、旧年俸の0.8倍の金銭補償、もしくは旧年俸の0.5倍の金銭補償プラス人的補償をすることが取り決められている。
人的補償が選択された場合、移籍先球団は28人のプロテクト名簿を提出し、元の所属球団はその名簿から漏れた選手を自由に獲得できる。2022年には巨人が梶谷隆幸、高橋優貴、平内龍太らを自由契約にしたことが「人的補償逃れ」ではないかと批判されたこともあった。育成契約選手は人的補償の対象外だからだ。
それだけFA補強は獲得する球団も痛みを伴う。言うまでもなく、人的補償で突然の移籍が決まる選手も心中穏やかではないだろう。プロテクトされなかった悔しさを発奮材料にして移籍先で活躍する選手も少なくない。
江藤智や工藤公康も人的補償経験
人的補償にはどうしてもネガティブなイメージがつきまとう。プロテクトされなかった、イコール必要不可欠な選手ではなかった、という目で見られるからだ。2009年までの人的補償選手は下表の通りとなっている。
人的補償の第1号となったのが1995年オフにFAで巨人移籍した河野博文に替わって日本ハム入りした川邉忠義。巨人では1軍出場がなかったが、移籍1年目の1996年にプロ初勝利を挙げるなど17試合に登板した。
広島の主砲として2度の本塁打王に輝き、1999年オフにFAで巨人移籍した江藤智は、2005年オフには逆に豊田清の人的補償として西武に移籍。初めてFA移籍と人的補償による移籍を両方経験した選手となった。
元ソフトバンク監督の工藤公康も現役時代は両方経験している。西武時代に3度の最優秀防御率に輝き、1994年オフにFA宣言してダイエー移籍。さらに1999年オフには2度目のFA権行使で巨人に移籍したが、2006年オフに門倉健の人的補償で横浜に移籍した。その後、2010年に西武に移籍し、実働29年で通算224勝をマークしている。
赤松真人、福地寿樹は移籍先で花咲かす
新井貴浩の人的補償で阪神から広島に移籍した赤松真人は、新天地で大きく花を咲かせた一人だ。移籍1年目の2008年、阪神時代は通算36試合しか出場していなかった赤松が、いきなり125試合に出場。12盗塁をマークした同年から7年連続2桁盗塁を成功させた。
胃がんを患うなど波乱万丈の野球人生だったが、通算136盗塁をマークした俊足はファンの脳裏に刻まれている。
赤松と同じ2007年オフに石井一久の人的補償でヤクルト移籍した福地寿樹は、2008年に初めて規定打席到達。打率.320、9本塁打、61打点と自己最高成績を残し、42盗塁で初タイトルを獲得した。
衝撃の馬原孝浩移籍、一岡竜司は新天地でブレーク
2010年以降の人的補償選手は下表の通り。
日本ハム時代の2009年オフに巨人へFA移籍した藤井秀悟は、2011年オフに村田修一の人的補償でDeNA入り。前年未勝利だった左腕が、2012年に7勝、2013年にも6勝を挙げた。
ソフトバンクで長年クローザーを務めていた馬原孝浩が、寺原隼人の人的補償でオリックスに移籍した時は世間を驚かせた。2012年は右肩を手術したため1試合も登板できなかったとはいえ、それまで通算180セーブを挙げていた守護神がプロテクトから外れるとは予想されていなかったからだ。オリックスでは2014年に55試合に登板して1勝32ホールドを挙げるなど、主に中継ぎとして活躍した。
一岡竜司も人的補償による移籍で花を咲かせた一人だ。巨人に入団して2年目だった2013年オフ、大竹寛に替わって広島入りし、移籍1年目の2014年に2勝2セーブ16ホールドをマーク。その後も貴重な中継ぎ右腕として2016年からのリーグ3連覇に貢献した。
内海哲也、長野久義らの大物も
脇谷亮太は2013年オフに片岡治大の人的補償として西武入りしたが、2年後にFA宣言して巨人に復帰。初の出戻り選手となった。
DeNAの平良拳太郎も人的補償組だ。2016年オフに巨人入りした山口俊と替わって移籍し、2018、19年には2年連続5勝を挙げた。
西武・内海哲也は、炭谷銀仁朗の人的補償。大学時代に日本ハム、社会人時代にロッテのドラフト指名を拒否した末に巨人入りした長野久義は、丸佳浩の人的補償で広島に移籍し、2023年から巨人に復帰した。
ロッテから楽天に移籍した美馬学の人的補償は酒居知史だった。2021、2023、2024年に20ホールド以上を挙げるなど中継ぎとして活躍している。
巨人・梶谷隆幸と入れ替わってDeNAに移籍したのが田中俊太。2021年は58試合に出場した。2022年に唯一FA移籍したソフトバンクの又吉克樹に替わって中日に移籍したのは岩嵜翔だった。
ソフトバンクにFA移籍した近藤健介の人的補償として日本ハムに移籍したのが田中正義。5球団競合した元ドラフト1位は2023年に25セーブ、2024年に20セーブを挙げ、新天地でクローザーとして開花した。
2022年オフにオリックスにFA移籍した森友哉の人的補償では、台湾出身の張奕が西武に移籍。しかし、西武では5試合登板にとどまって戦力外通告を受け、台湾・富邦入りしている。
ソフトバンクにFA移籍した山川穂高の人的補償で西武に移籍したのは甲斐野央。一時は和田毅が人的補償と報じられたが、結果的には甲斐野が移籍し、騒動になった。2024年の甲斐野はケガもあって19試合登板にとどまったものの、11ホールド(2敗)を挙げた。
2023年オフにオリックスにFA移籍した西川龍馬の人的補償で広島に移籍したのは日高暖己。宮崎・富島高時代に夏の甲子園に出場した本格派右腕で、まだプロで一軍出場はないものの将来を期待されている。
希望に満ちてFA移籍する選手がいる一方、人的補償で突然の移籍を余儀なくされた選手がいることも忘れてはならない。今オフは、どんなドラマが待っているのだろうか。
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